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中学校「技術分野」の教員不足が解決されるのは2028年度?文科省の調査を解説!

こんにちは。政策提言部の田嶋です。

1年前に書かれた記事『中学校の「技術」で教員不足?文科省が調査を予告』から1年が経ち、中学校の「技術・家庭科」の技術分野(以下、技術)の教員の実態調査の結果が公表されました。その結果をお伝えします。

中学校の「技術」はより充実した指導体制を整備したい

2024年2月13日に公表された「中学校技術・家庭科(技術分野)の指導体制の一層の充実について(通知)」(以下、本通知)には、噛み砕いて要約すると以下のような内容が記載されています。

  • 公立中学で技術を教えている教員 9,719 人のうち、2,245 人(23%)は普通免許状を持っていない教員だった
  • 文科省は、教員の採用・人事に責任を持つ都道府県・指定都市の教育委員会に対して、この事態を改善するための計画の提出を求めた
  • 計画がきちんと実行されれば、2028年度には解消される見込み(進み具合を都度、文科省が点検する予定)
  • 文科省も、指導体制の充実のために、施策パッケージで応援する

文部科学省 「中学校技術・家庭科(技術分野)の指導体制の一層の充実について(通知)」

参考までに、昨年12月に公表された高校「情報」の教員に関する調査によると、情報の「正規の」免許を持っていない高校教員は2023年度は全体の4.4%でした。2022年度の調査結果では16.7%でしたのできちんと改善しており、2024年度には予定通り0%となる見込みです。

「高校「情報」の指導体制は大幅に改善に向かっているので、同様の改善を中学技術でも行っていこう」というのが、国の意向だということが分かります。

指導体制の確保と教員の指導力向上を実現するために

この通知では、中学校の技術教育の指導体制を確保するために、各自治体の改善計画の履行に加えて、以下のようなアイデアが考えられています。

  • 教育委員会の体制整備
    • 技術専任の指導主事をおいていない都道府県等が10自治体(全体の約15%)ある
    • 小学校プログラミング教育の担当指導主事と中学技術の担当指導主事の兼務や、小学校プログラミング教育・中学技術・高校情報をまとめて指導主事2名体制とする工夫も考えられる
  • 技術の普通免許状を持っていない教員に対する、認定講習等の受講の奨励
  • 複数校指導の推進
    • 複数校指導の手引き」を参考にする
    • 必要応じて技術教員が小学校のプログラミング教育を担うなどの工夫も検討
  • 遠隔授業の活用
    • 遠隔教育特例校制度について、文科大臣による指定を不要とする制度改正を検討中

文部科学省は、教員の指導力を向上させるために、コンテンツと研修機会を充実させることを目指しています。

  • コンテンツの充実
    • 「D 情報の技術」のプログラミング授業実践動画の公開(2023年度中に公開予定)
    • NHK for School における関連動画・番組作成、広報活動への積極的な協力を検討
    • 全国の教師の個別最適な学びを支援する「全国教員研修プラットフォーム」で、各教師のニーズに合った情報教育・プログラミング教育に関する研修コンテンツを公開(2024年4月公開予定)
  • 技術担当教員の研修機会の充実
    • 文科省主催の研修
    • 日本産業技術教育学会・一般社団法人情報処理学会と連携した教員研修

自治体は、どのような対策を講じるのでしょうか?

中学技術の指導体制の改善のために、各自治体がどのような取り組みを行っているかは、本通知の別添資料で詳しく紹介されています。

文部科学省 「中学校技術・家庭科(技術分野)の指導体制の一層の充実について(通知)」

文部科学省 「中学校技術・家庭科(技術分野)の指導体制の一層の充実について(通知)」

複数校指導の増加、普通免許状の取得奨励、遠隔授業の実施など、既存の教員に対する施策はもちろんのこと

  • 技術教員の計画的・着実な採用
  • 退職者数見込みを見据えた中長期的な採用必要数の推計
  • 採用必要数を基に、地元の大学における教員養成や採用試験における募集定員の設定等について協議する場の設定

といった、教員養成・新規採用についても言及されています。

なお、前回の記事で紹介したように「技術分野の教員養成から手を引き始めた教員養成大学が増加してきている」という指摘があります。技術分野の免許資格を取得するためには、多様な分野の実習を経験する必要があり、大学側はこれらの実習ができる機材等を用意せねばならず、維持のための負担が大きいことは否定できません。また、学生も免許取得に当たって最低単位数を超える単位の取得を要するケースが生じているという指摘もあります。

こうした事態に国としても対策を講じており、2024年度からは技術の「教科に関する専門的事項に関する科目」が現行の6区分から4区分に整理されるなど、大学・学生双方の負担軽減に取り組み始めています。

文部科学省 「中学校技術・家庭科(技術分野)の指導体制の一層の充実について(通知)」

中学技術は、情報の技術以外にも幅広い内容を扱う教科であり、教員養成・新規採用については引き続き国・自治体・大学・関連団体等が一丸となって取り組む必要があるといえるでしょう。

次期学習指導要領改訂に向けて

全ての自治体で「中学校技術科の普通免許状を持たない教員の数がゼロになるまでに5年」は長すぎると思いますか?この問題は深刻である可能性があります。しかし、「もし5年以内に状況が改善されれば、次期学習指導要領の実施に間に合う」という点に私たちは注目したいと考えています。

中学校の次期学習指導要領の改訂は、前回と同様のスケジュールだと想定した場合、以下のように進行します。

  • 2026年度:改訂
  • 2027年度:周知期間
  • 2028-2030年度:移行期間
  • 2031年度〜:全面実施

みんなのコードはかねてから、次期学習指導要領においては、小中高を通じて体系的・継続的に情報活用能力を育成するために、各学校段階において独立した情報の時間・教科を整備すべきだと提言*1してきました。

*1 2030年代の情報教育のあり方についての提言

もちろん、情報教育の充実にあたっては、学習指導要領の改訂といった「コト」の議論だけでなく、GIGA端末やネットワークといった「モノ」の整備、各学校における指導者など「ヒト」の充実を合わせて考えていく必要があります。今回の取り組みによって、次期学習指導要領の実施前には、中学校における指導者体制はかなり充実したものになることが期待されます。また、GIGA端末については、更新に向けて基金が創設される予定です*2。

*2 (事務連絡)令和5年度補正予算案への対応について(令和5年11月10日)

モノ・ヒトに関する取り組みが進展している中、次期学習指導要領における情報教育の充実に向けた基盤が確立しつつあると感じています。

この流れを考慮しつつ、みんなのコードは引き続き、2030年代の情報教育のあり方について関係者との対話を継続していきたいと考えています。

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