こんにちは。みんなのコード竹谷です。
昨年からみんなのコードがモデルカリキュラム開発をサポートしている印西市立原山小学校との取り組みについて、先日実践報告を公表しました。
前回に引き続き、実践報告に載せられなかったコメントも含めて、2名の先生のインタビューをご紹介いたします。
保護者の願いとも向き合いながら
原山小学校:2年生担任 竹本しずか教諭、4年生担任 和田 諭教諭(肩書きはインタビュー当時)
聞き手:みんなのコード 講師・研究開発 竹谷正明
竹谷: 保護者の皆さんの反応はどうですか?
竹本: ICT をよく活用する、情報教育に力を入れている学校というのは評判で、それを理解していらっしゃる保護者の方が多いと思います。ただ、入学当初は、パソコン等を多く使うことに不安を感じる方もいらっしゃいます。保護者の方に「お子さんがパソコンを使っている時に、どんなことが気になりますか」とアンケートを取ったところ、姿勢や時間、視力に関する不安、また「勉強や手伝いなど、家でやるべきことをやらなくなるのでは」といったことが挙げられていました。
そのため、1年生から、デジタル・シティズンシップについての学びを進めています。例えば、保護者の方の意見を子どもたちにも伝え、メディアとの向き合い方を自分たちで考える学習を行っています。「どういう風に活用していくと、このパソコン等のメディアは便利で、すごくいいものになって、どういう風に使うと、逆に悪いものになってしまうのかな」ということ等もクラスで話し合い、自分たちでまとめたことを、日常で意識しながら活動することで、メディアとの向き合い方の基本的なところは、2年生につながるような形で身についてきている印象はあります。
和田 :私は、ICTを必要とする場面やそうでない場面があることや、ICTを活用することは「書くことを疎かにすることではない」という話を保護者の方にしています。低学年から、デジタル・シティズンシップを学んできていることもあるので、保護者の理解度は高いです。
あとは、情報活用能力って、目に見えないじゃないですか。テクノロジーを活用している子どもたちをみていると、成長を感じるんですけど、だからといって成績が急激に伸びるわけではない。従来の学力とは異なるけれど、見えない部分の力は確実に身についているということを、保護者の方に伝えることで理解が得られると思っています。
竹本: 保護者の方も、やはり時代の波に乗り活躍してほしいという願いがあるので、みなさん前向きだと思います。ICTの活用に関して、少し不安に思うことも、使い始めれば、時代の流れで必要なんだなと自然に受け止めていくのではないかなと思います。
竹谷: 原山小の情報教育の現状をどのように感じられていますか?
竹本: 各学年で、コンピュータサイエンスに関する内容を教科等での学習内容と関連を見ながら検討し、よりよいカリキュラムを構築している状態です。新しい情報教育の成果が明確にわかるには、1年生からスタートして卒業までの6年はかかると思います。
和田: 今年度、コンピュータサイエンスを学ぶ新しいカリキュラムを開発してきましたが、まだ改善すべき点はあります。ただ、大まかな骨組みはできたと感じているので、さらなる実践と評価・改善がこれからも必要です。
「全然わからないけど、使ってみる」「思いついたら、やってみる」
竹本: 私、原山小に赴任して1、2年目は、ICT活用がすごく嫌だったんですよ。ICT活用や情報教育の研修が多く行われるようになり、「夏休みまで ICTの研修を受けに学校に行かなきゃいけないのか?」と正直思っていました。また、若い先生たちが計画を立てて、研修を進めてくれるんですが、初めは全然できないし、教えてもらっても、すぐ忘れてしまって、授業で効果的に活用することは難しいと感じていました。本当に嫌でした(笑)。
でも、3年目になったとき、教えてもらったことを実践してみたり、自分でも少しずつ ICT を活用できるようになってきて、「もっと前に進んでみよう」と思いました。原山小にいるんだから、やるんだ、と。全然わからなく感じることでも、まずはやってみる。わからなかったら、聞く。そして、毎日使っていたら、いろいろな面でとても便利で有効なことに気づいたんです。
まず、国語と算数のデジタル教科書の便利さがわかりました。そこから、ロイロノートとデジタル教科書を掛け合わせて授業展開することができました。また、子どもたちがデジタルの資料や友達との話し合いの結果などを組み合わせてデジタルのノートを作る等、実用的ですごく学習に有効なことがわかってきた、それが3年目。4年目は、1学年を担任したこともあって、低学年からの系統的なテクノロジーの活用の仕方や情報教育などについて、研修や雑談の中で職員から教えてもらいながら、どんどん理解できるようになって、さらに積極的に活用するようになりました。
和田: 新しいことに挑戦することは、正直大変でした。ただ、結果的に挑戦したことが無駄になったものはなかったんです。たくさんの外部の方と関わる機会をいただいたこともすごく大きな力になりました。校長先生が、みんなのコードさんや、GoogleさんやFigmaさんなど、いろいろな分野の専門の方々を、私たちに繋いでくれました。校長先生は機会を提供してくださることだけではなく、自分が「こういうものがやりたいんですけど …」と伝えたときに、否定されたことがないんです。自分が思いついたことを相談しても、「やってみたら」と言ってくださいますし、そこに安心感があります。自由な発想を大切にしてもらえる環境を作ってくださったので、すごくうれしいです。
特別ではない取り組み 未来につながる学び
竹谷: 今後の教育のあり方として、原山小の取り組みが広まる可能性についてどう思いますか?
和田: 自分たちが普段やっている授業は、どの学校でも、きちんと専用の時間を確保した上で、先生方がやりたいと思えば、できるものです。本校の ICT活用や情報教育の進め方は、他の学校でも参考となり、問題なく実施できるものです。これまで県内外から多くの視察もありました。どんどん広がっていくと思います。
竹谷: 一方で、竹本先生がおっしゃったような、なかなか慣れないとか、使わなくたってできるんじゃないかという思いはハードルになりますよね。逆に、そこを乗り越えれば、どの学校でもできるのではないか、と。
和田: はい。なぜ情報教育が必要なのかを理解し、少しずつでもよいので前に進む意思をもてるようにしたいですね。同じ職場の先生と一緒に悩みを話し合い、自分がやりたいと思う情報教育の授業を展開していくことが大事なのではないでしょうか。
竹谷: AIだったり、コンピュータの仕組みそのものについて科学的に学ぶことだったり、小学校段階からコンピュータサイエンス分野を扱うことついては、どんな印象を持っていますか?
竹本: 低学年から、そんなことがあるんだなあ、ぐらいのふんわりした体験的な学習を始め、段階的にコンピュータサイエンス分野のスキルを身につけていくことは、中学校以降の学びにつながるという意味で大切だと思います。
和田: 自分も同じです。コンピュータサイエンスの領域は、これからの時代に必須のものです。デジタル・シティズンシップは外せないものだし、プログラミングもやっていいと思うし、AIも学校でやっている方が安心です。自分が中学校・高校の先生だとしたら、小学校のうちにAIに触れてきていてほしいと思います。小学校段階から、少しずつ日常生活と結びつけるなどして、探究的な学習の中でそのスキルを身につけることができるようにしたいと率直に思います。
できることから少しずつみんなで支える
竹谷: 最後に先生方が大事にされていることを教えてください。
竹本: 苦手なこと、できないことでも、毎日、小さなことから少しずつ続けていけば、いつか思い通りにできるようになると考えるようにしています。教員経験が長い方は、これまでの様々なノウハウがあるから、それと ICTを組み合わせると、より良い学びを展開できるはずです。
和田: 原山小での取組で、授業展開の考え方や方法が変わりました。子どもたちの表情も、以前とは全然違います。子どもたちが、主体となった学習をするにあたり、様々な手法があると思いますが、先生方それぞれのアイデアを大切にしたいと思うんですよね。
全員が同じことをする必要はないし、いい実践だと思ったけど、うまくいかなかったということが絶対あると思うんです。子どもたちのスタイルに合う授業の在り方を見つけることを意識しています。
竹本: やはり学校は組織で協力し合ってやっていくことが大事ですね。本校は、みんな親切なんです。聞いてもすぐ教えてくれるし、優しく、何度聞いても怒らずに教えてくれます。それはすごくありがたいことですよ。
竹谷:挑戦を支えているのは、お互いの人間関係なんだなっていう。究極は最後はそこだなって思いました。
学校の試行錯誤を振り返って
情報教育の新しいカリキュラム構築は、1年でできることではなく何年もかけて創り上げていくものだということがわかりました。また、それは先生だけでできるのではなく、保護者や外部の方々とも協力し合ってきたからこそ、今の原山小があるのですね。これまで原山小での授業で直接見せていただいた子どもたちの力、その源泉が見えた思いで、一つ一つ納得しながら先生方のお話をうかがいました。
前編、後編にわたり紹介したインタビューの詳細はこちらでもご覧いただけます。