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中・高情報教育の新たな提案〜中学「技術・情報」科の新設と高校「情報」へのつながり〜

「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案」シリーズ③

みんなのコードは、2024年7月に次期学習指導要領に向けての提言「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案」を発表しました。

これは、私たちが考える、これからの小・中・高の情報教育のあり方について提案するものです。

今回は中学校部分を担当した千石、高等学校部分を担当した永野が、これからの「技術・情報」教育について語り合いました。

教育関係者はもちろん、子どもの教育に関心のある全ての方々にとって、情報教育の未来への展望が開けてくる内容になっていたら嬉しいなと思います。

著者プロフィール

千石 一朗
民間企業でエンジニアを経験後、教員採用試験を経て東京都の中学技術の教員に転身。世田谷区、稲城市で計11年間教員として中学生の指導に当たる。指導だけではなく、研究会での発表や教科書執筆を経験する。その後、2020年4月よりNPO法人みんなのコード入職。エンジニア、教員としての経験を活かしつつ、教材開発や研修会の講師に携わる。

永野 直
千葉県の公立高等学校教員として25年勤務し、教科「情報」の新設当時から情報科の授業を担当。教員時代には全国の公立高校で初となる1人1台のタブレット端末を必携とする情報科の専門学科を2011年に新設し、学科長を務めた。千葉県総合教育センターでは指導主事として、現場教員への小中学校プログラミング教育や高等学校「情報」の授業改善研修等に取り組み、新学習指導要領専門教科「情報」の作成にも従事した。2021年よりみんなのコードに入職。現在は講師・研究開発担当として従事。

中学校「技術・情報」科設置という提案

永野:
今回の「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案」(以下、カリキュラムモデル案)では、小学校、中学校、高等学校の情報教育の今後についてそれぞれ記しています。学習内容についてはカリキュラム案に詳しく記載していますので、今日はなぜこのような提言の内容になったのか、その背景やねらいについて話ができればと思っています。

特に中学校の部分は現行の学習指導要領とは大きく異なる提案となっています。現在の「技術・家庭」科を分離し、「家庭科」と新たに「技術・情報」科を設置するという内容ですね。

千石 :
「技術・家庭」科は教員免許も異なり、それぞれの授業時間に異なる担当者が指導していながら、成績や評価は1つにまとめるという、他の教科では見られない状況が40年以上続いてきました。

今後も連携していくことは重要ですが、「家庭」と「技術・情報」を教科として、より自然な形で実施するのが良いのではないかという提案です。

実は、「技術・情報」という考え方は、平成10年の時の指導要領改訂の時にも話題に出ています。当時、「技術とものづくり」と「情報とコンピュータ」という2つの大きな領域で実施することになりましたが、

紆余曲折あり、現在の「材料と加工」「エネルギー変換」「生物育成」「情報」の4領域を技術分野で学ぶことになったのです。

しかし現代の状況を見ると、情報の重要性はますます高まっていて、中学校でも情報教育をもっと充実させるべきではないかというのが、我々の大きな問題提起になっています。

永野 :
今回のカリキュラムモデル案では、「技術・情報」科については、 その中の「情報」に関する領域部分についてのみ提案しているということですね。

現在、「技術・家庭」科の技術分野は各学年35、35、17.5時間、合計87.5時間の学習となっているところを、今回のカリキュラムモデル案では、各学年70時間、合計210時間とし、その約半分の105時間程度を情報分野に充てるということですね。

千石:
技術分野の学習内容は多岐に渡るので、現行の学習時間では足りないと感じます。情報の分野をより充実させるとなるとなると、なおさらです。「技術」は実習が非常に重要な教科ですが、時間数が足りず十分な実習ができていない状況も見受けられます。

情報だけを充実させるという意味ではなく、材料と加工、エネルギー変換、生物育成とも関連しながら、実際にものづくりを通して学ぶことが大事だと思います。

永野 :
今回、情報分野の学習内容について、小・中・高等学校でA情報と社会、B情報デザイン、Cコンピュータの仕組み、Dネットワーク、Eアルゴリズムとプログラミング、Fデータと分析の6領域に統一しましたが、

特に中学校「技術・情報」科ではこれらを学ぶ上での「ものづくり」の視点が大事だということでしょうか。

千石 :
「作る」とはいっても、先生が「これを作りなさい」と指示をしたり、市販の教材を組み上げて終わり、という傾向がこれまでに多く見られたことも確かです。

我々の提案としては「ものづくり」の中に、生徒の多様な発想や、各自の課題解決の視点を大事にしてほしいということです。

永野 :
言われたものをただ作るのは「ものづくり」の精神ではないということですね。自分たちで「こういうものを作りたい」という想いが、ものづくりとしては不可欠ですね。

子どもたちの「意志」は教えられて身につくものではないので、経験を通してだんだん身につくものだと思います。小・中・高等学校での体系的な情報教育というのはこのような姿勢を継続的に育むという意味でも重要ですね。

高等学校「情報」の提案ポイント

千石:
では、今回のカリキュラム案について、高等学校のポイントはどこですか?

永野 :
高等学校は現在、「情報I」の1科目が必履修科目となっています。大学入学共通テストに情報が加わるということで、重視されてきていることは確かでしょう。

しかし、入試科目になることで、現場の先生からは座学だけで精一杯という声を耳にします。中学校「技術・情報」と同様、高等学校「情報」においても、やはり実習は重要です。もう少し時間的に余裕を持たせて、試行錯誤しながら問題解決を行えるような時間を確保すべきだと感じます。

また、単学年だけではなく複数の学年で 2科目を必修にすべきと提案しています。

千石:
2科目は「情報II」ですか?

永野:
もちろん「情報II」もありますが、これは非常に高度な内容の科目です。

学校の事情や生徒の興味関心に合わせて、もっと多くの科目の中から選択できれば良いと考えています。現行の学習指導要領でも、専門科目「情報」には12の科目があります。

「情報I」に加えて、「情報II」やそれらの豊富な科目の中からもう1科目を設定するのが良いと考えています。

千石:
専門科目は本来専門学科「情報科」で学ぶ科目ですよね。

永野:
普通科でも専門科目を学ぶことはできます。

逆に、今回の提案では専門学科でも共通教科「情報」科目である「情報I」を学ぶべきだとしています。

各専門科目には、「情報I」の代替科目がありますが「情報I」の内容を網羅できていないという指摘もあります。共通テストを受ける専門学科の生徒もいるのですから、それでは困ります。

現代においては、どんな産業であっても「情報I」の内容は関係してします。「情報I」をすべての高校生が学び、専門学科においては、専門科目の単位数として「情報」の単位数を計上できるようにすべきと提案しています。

千石:
共通テストの話題が出ましたが、やはり進学校では知識重視の授業となってしまっているのでしょうか。

永野:
学校によって、生徒像や授業の進め方というのはそれぞれ違ってしかるべきだとは思いますが、大学受験する/しないに関わらず、「情報」を学ぶことの重要性、そしてなぜ情報学ぶのか、という点はどこの学校でも根本的には変わらないと思います。

大学進学があるからといって、試験対策ばかりやっていれば良いというわけではない。社会の中で、「情報」が持つ影響力とか、それを活用する力というのは、 大学に行くかどうかにかかわらず、誰にとっても、そしてどんな職業に就こうとも重要です。

千石:
高等学校「情報」での「ものづくり」の視点についてはどうですか?

永野:
今の「情報I」の内容は、かなり充実しているといわれていますが、中学「技術」で重視されている「ものづくり」という視点については、確かに中学と比較すると少なくなっているという印象を受けます。

画面内で完結するプログラムとか、データ活用とか、シミュレーションはあるけれど、 アクチュエータを使ってものを作ったり動かすというのは、実施されているケースは少ないと思います。

中学と高等学校の接続という意味でも、高校「情報」科での「ものづくり」の視点はもっと大事にしないといけないのではないかと思っています。

千石:
高校生になると、工業高校や農業高校、また水産高校などもあるので、中学「技術」で学んだ材料と加工、エネルギー変換や生物育成は、それぞれの専門学科で学べば良いという考えがあると思います。しかし、現代では生活にまつわるあらゆる物が計測や制御、ネットワークの技術を使っているわけで、画面内だけで閉じない「情報」の学びをするべきですよね。

永野:
中学「技術・情報」科では学習内容と現実世界との関わりが非常に重視されているわけです。小学校でも、高等学校でも、現実世界で私たちの生活と情報がどう関わってくるのか実感を持って学ぶという意味ではとても大事な視点だと思います。

小・中・高等学校のプログラミング

永野:
小・中・高等学校のそれぞれでプログラミング教育が行われているわけですが、その繋がりについてはどのように感じますか?

みんなのコードが実施した「2022年度プログラミング教育・高校「情報I」実態調査報告書」では、高等学校の先生が、生徒が中学段階でプログラミングを学んできているという実感が非常に低いという結果が出ました。

千石:
中学校についても、同様だと思います。小学校で子どもたちがプログラミングを学んできているという実感を持って授業ができている先生は少ないと思います。ですから、中学校の先生も生徒たちにプログラミングをゼロから教えはじめるのが実情です。

永野:
まずは各学校段階できちんとプログラミング教育を実施することが重要ではあるのですが、それぞれの学びに繋がりを感じられることがポイントですね。

千石:
小学校では、算数で多角形を描き、中学校では技術分野で計測制御などを学び、高等学校ではテキストプログラミングをやるというだけでは、それぞれに関連性が見出せないのかもしれません。

各学校段階でどんな内容について、どんな環境でプログラミングを扱おうとも、実際には深い関連があります。

例えば、ビジュアルプログラミングで学んだ内容を、高等学校でテキストプログラミングで扱った時、例えば小学校で「変数」という言葉そのものを覚えていなくても、自分のプログラムの中で扱ったことを覚えていれば、「これ、小学校や中学校の時にやったことがある」と気づくと思います。自分の知識や経験が時間を超えてつながった時に、深い理解につながるのだと思います。

螺旋的に学ぶ情報教育とは

永野:
小学校から中学校、高等学校へと、どんどん高度な学習内容を積み上げていくということではありません。用語や具体的に扱っているテーマは違っても、その意味の同一性に気づくことで、改めて理解が進み、発展させたり、活用できたりするようになるんですよね。

これが今回のカリキュラム案でいう「螺旋的な学び」ですね

千石:
小学校では「理科」として「電気の利用」でプログラミングを学ぶわけですが、中学校では類似の内容は「技術」分野のエネルギー変換で学びます。だから、教科の中で学んだことをそこで閉じさせずに、色々な教科を学ぶ中で学習内容は繋がっている、という気づきが大事ですね。

永野:
「情報」は特に各教科との関連性が多い分野だと思います。知識の繋がりという意味でも、情報には大きな役割があります。

「情報」を小・中・高等学校と継続的に学ぶこと、そして子どもたちが「ものづくり」という実感を得ながら学ぶことの必要性を改めて感じました。

千石:
社会と情報の繋がり、自分の中の知識や経験の各学校段階での縦のつながり、そして各教科間で学んだことの横の繋がりを小・中・高等学校を通じた螺旋的な学びの中で作り出していくことが、今回のカリキュラム案のポイントですね。

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