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型破りが未来を創る―三谷産業とみんなのコードが描く「ミミミラボ」の意義(後編)

NPOとともに築くシリーズ#2

「より良い社会を実現するために、異なるセクターや分野を越えて社会課題の解決に取り組むこと」を目的に、みんなのコードは「NPOとともに築くシリーズ」の対談企画をスタートしました。

今回の記事では、前編に続き、金沢にある「ミミミラボ」を一緒に運営する三谷産業の三谷社長へのインタビュー後編をお届けします!

この記事では、ミミミラボの意義や三谷産業の地域との深い結びつき、さらに三谷社長が語る未来へのビジョンや企業の挑戦について詳しく探ります。ミミミラボを子どもたちにとって型を破り、新たな創造を生む場所にしたい!という三谷社長の思いが詰まっています。ぜひご覧ください。

前編URL:https://code.or.jp/magazine/20241107/

話し手:三谷産業 代表取締役社長 三谷 忠照 氏
聞き手:みんなのコード 代表理事 利根川 裕太

未来への恩送り

三谷氏:
教育に反映されているラボ的な部分も大切ではありますが、子どもたちの居場所としてもとても重要だと考えています。ミミミラボは、利益を生むための施設ではないですし、有料で運営しているわけでもないです。ただ、子どもたちがここで生き生きと学び、それぞれが自分の道を見つけて進んでいくことが、この場所の意義だと思います。中には、ロボットプログラミングのコンテストに出る子や、テクノロジーを用いた現代美術に興味を持って極めていこうとする子もいます。ミミミラボでの経験や居場所がその子たちにとって大切なものになっていく。それだけで私たちとしては十分ありがたいです。

利根川:
いつかその子達が大人になった時、「三谷産業がやっていたんだ」と思い出してくれたら嬉しいですよね。

三谷氏:
そうですね。クリエイティブな方面でテクノロジーを活用していくというのは、学校の教育現場では難しいことが多いです。けれども、こうした場があれば、子どもたちにとって新しい道が開かれていく。そして、金沢や日本全国で活躍する石川県出身の人材が育っていけば、それは私たちにとって大きな喜びです。社会還元と言いながらそれがさらに循環していく社会になればと願っています。

利根川:
私も個人的に近い感覚を持っていて、金沢や石川県、そして地域の方々が生き生きと活躍していることは、外から見ると事業の基盤として非常に大切な要素だと感じているんです。

三谷氏:
本当にその通りですね。北陸地域が元気を失った状態で三谷産業だけが成長するのは、非常に難しいと思います。私たちは調和の中で成長させてもらっていると感じています。地域社会を支えることで、自分たちのビジネスも発展していく。地域を良くすることで、自分たちも良くなるという、そういった循環があるんです。金沢や北陸地域が面白い場所であり続けることが、三谷産業にとっても非常に重要な要素です。

利根川:
まさに地域と企業は共に成長するということですね。

三谷氏:
そうですね。同心円のように、中心が金沢で、その周りに北陸の地域があって、そこが発展し続けることが、私たちの成長にも繋がるんです。例えば同じ石川県内の、スマートシティを推進する加賀市に羨ましさを覚える部分もありますが、それは地域同士の健全な競争だと思っています。

利根川:
それも地域を活性化させるためには大切な要素ですね。お互いを刺激し合って、成長していく。

三谷氏:
そうです。特に災害の時などは、地域全体で支え合う必要があります。能登半島地震の際には、すぐに私たちも支援を行いました。地域の高校生たちが金沢に避難してくる中で、彼らが学び続けられる環境を整えるために、必要な物資や設備を提供しました。

利根川:
能登半島地震のような災害時の支援というのも、地域社会として重要ですね。生徒たちはそういった支援を知らないかもしれませんが、それでも陰ながら地域をサポートするというのは、大きな意味があります。

三谷氏:
なんだろう、お天道様が見ている、みたいな言い方をするのも変ですけど、私たちからすると、まさに、生徒さんたちを陰ながら応援させてもらってるという感じなんです。やっぱりこの地域の人たちが、高度なクリエイティブ人材や産業人材になっていくことがすごく必要なんですよ。その中の何%かは三谷産業に入ってくれる人もいるし、たとえそうでなくとも、親戚や家族が関わることもある。地域社会はすごく狭いので、調和がとても大事だなと感じます。

利根川:
前に三谷さんとお話した時にも感じたんですけど、ここのミミミラボに関わった子が大人になって、将来的に三谷産業と取引があるだけでも、それだけで十分意義があるという話がありましたよね。

三谷氏:
そうそう、そう言っていましたね。自分としてもきっと、ミミミラボの卒業生は、ある意味、三谷産業のOBOGであるかのような感覚で接すると思います。もし、5年後、10年後に商談の席で「ミミミラボに通っていました」なんて言われたら、やっぱりちょっと贔屓しちゃうかもしれないですね(笑)。

利根川:
同じ条件なら、やっぱり選びたくなりますよね。さっきの話で、複合商社という考え方と繋がる部分があると思います。広い意味でのファミリー的な感覚が、こうやってどんどん広がっていく。

三谷氏:
そうですね。ファミリーですよね。エコシステムというか、そうした繋がりを大切にすることが、企業の成長に繋がっていくんです。

利根川:
たしかに、自社に入ってくれたらもちろん嬉しいけど、そうじゃなくても、自社の周りで活躍してくれる人がいるというのも大切ですよね。そして、それがまた取引に繋がる。素晴らしい循環だと思います。

三谷氏:
そうなんですよ。恩送りですね。直接の恩返しじゃなくても、いずれは何かの形で返ってくる。そういう循環が大事なんです。

4代目経営者としての挑戦

利根川:
先ほど、創業時のお話をしていただきましたが、4代目の経営者として、創業者の影響をどのように感じていますか?

三谷氏:
三谷産業の前身となる会社をつくった曽祖父のスタイルは、「本当に時代の風を読むのが上手い人だった」と言われています。石炭事業に大きな投資をしたことも、その後の成功に繋がりましたが、当時はかなりリスクのある選択だったんじゃないかと思います。一方、祖父は慎重な人で、「石橋を叩いても渡らない」と言われるくらい慎重でしたが、同時に大胆に勝負する強さも持っていました。

利根川:
自分自身はどういった経営スタイルだと感じていますか?

三谷氏:
僕はよく祖父の慎重な面が似ているって言われます。父は大胆な人ですが、僕はつじつま合わせの人ですよ。何かをやらなきゃと思ったら、その理由を後から作るんです。たとえば、ミミミラボを作らなきゃいけないという必然性も、後から見つけ出した感じですね。

利根川:
そういえば、以前お話しした時にもその話が出ましたね。それが三谷産業全体にも表れているんじゃないかなと思います。

三谷氏:
そうなんです。今、6つの事業分野があるんですけど、単にそれを維持しているわけではなく、常に新しい種をまいていける会社にしたい。だから「総合商社」じゃなくて、「複合商社」と呼んでいるんです。事業の掛け算でイノベーションを起こしていく会社でありたいと。

利根川:
たしかに、それって新しい価値を生み出す力が重要ですね。高校生の頃からいたずら好きだったっておっしゃっていましたが、その自由さが今の会社の創造性にも繋がってるのかなと。

三谷氏:
高校の時もそうでしたね(笑)。やんちゃなことをやりながら、面白いことを追求する感じでした。なので、現在会社としては型破りなことにチャレンジしていることもあると思います。今も社員には「まずは、3割ぐらいの完成度でいいから!」と伝えています。試しながら対話して、良いものにしていくスタイルです。社員には失敗することを恐れず、むしろ失敗することを前提にして、まずは試しにやってみなよ!とチャレンジすることを応援しています

利根川:
それが三谷産業の強みですね。社員がやりたいことを自由に試せる環境があるからこそ、イノベーションが生まれてくるんでしょうね。

三谷氏:
業務とは関係ないことでも、社員の「やりたい」を応援する社内制度があります。「早い者勝ち!みんなで550万円使える探索型プロトタイピング応援制度」というプロジェクトです。ちょっと変わってますよね(笑)。

利根川:
上場企業でそんな制度を持ってるのはすごいですね。100年近い歴史のある会社でそれをやるなんて。

三谷氏:
アイデアを持っている社員が「50万円ください」とか「こういうことをやりたいです」って企画を持ってくるんです。僕も「じゃあこういうのもやってみよう」と言ったりして、いろいろなプロジェクトが生まれるんです。

利根川:
そういう自由なスタイルが、やっぱり面白さを生むんですよね。人生の中で何十年も働くとなると、その時間をどう使うかってすごく重要ですよね。週40時間をつまらない場所で過ごすのは辛いですよね。

三谷氏:
まさにそうです。僕もそれを感じていて。自分でベンチャー企業をやっていた時代もあり、サンフランシスコやシリコンバレーで働いていたこともあって、カジュアルに働く空気に触れてきていました。ベンチャー企業さんが突飛なことをするのは、逆に当たり前のことのように感じてしまいますが、三谷産業が「これやっちゃっていいの?」という感じのことをやるのが面白いんですよ。

利根川:
そういうところが、三谷産業らしいユニークさですよね。古くからある会社が、時には大胆な挑戦をする。それがまた魅力になっているんですね。

ミミミラボのこれから:型を破り、新たな創造を生む場所

利根川:
そろそろ、お時間も近づいてきたので、最後に三谷社長にとってミミミラボはどんな場所であってほしいか聞かせてくれますか?

三谷氏:
はい。ミミミラボは、型を破れる場所であってほしいと思っています。決められたことだけじゃなくて、自由に考えて、新しいものを作り出す場になってほしいです。ルールはもちろんありますが、それを知った上で型を崩していくことが重要なんです。

利根川:
そうですね。自由に遊び、挑戦できる場であることが、未来の創造に繋がっていきますよね。

三谷氏:
少し自分の話になるのですが、僕の夏休みの思い出の一つに、父の仕事でベトナムに行ったことがあります。今年はちょうど、うちの会社がベトナム進出30周年を迎えるのですが、当時僕は中学3年生の受験生で、その状況も知りながら父が「ついて来い」と言ったんです。塾の先生や学校の先生からは「受験生にとって大切な時期に海外旅行なんてとんでもない」と怒られました。彼らが父に「学校や勉強と、どちらが大事なんですか?」と聞いたら、父は迷いなく「ベトナムに決まっているだろう!」と答えたんです。

その言葉が僕の心に強く残りました。学校の先生や塾の指導がすべてではなく、父は違った視点を持っているんだと、そのときはじめて感じました。このときの衝撃が、自由な発想や挑戦を大事にする姿勢に繋がっているのかもしれません。

利根川:
それは面白いですね。特に「ベトナムに決まってる」っていうお父様の言葉、非常にインパクトがありますね。

三谷氏:
そうなんです。その感覚を今、ミミミラボにも反映させたいと考えています。ミミミラボは、何もしなくてもいいし、やりたいことに自由に挑戦できる場所でもあってほしいんです。作りたいものを作り、やりたいことがあれば、メンターが道を示してくれる。メンターは手取り足取りではなく、道しるべのような存在ですね。

利根川:
自由な環境って、子どもたちにとっても本当に大事ですよね。縛られることなく、自分の発想で動ける場所。

三谷氏:
そうなんです。だから、ミミミラボが持っている既成概念も壊していってほしいんです。もちろんルールはありますが、その枠を少し越えたところに面白いものがあるかもしれません。僕も昔、最初に就職した会社でオフィスの電話をグルーガンでくっつけて遊んだことがあるんです。オフィスの電話が鳴って、受話器を取ったら、電話機が本体ごと持ち上がるなんて、現代アート的じゃないですか?(笑) もちろん上司にはめちゃくちゃ怒られましたが、同僚は「やられたよ」と笑ってくれました。面白いことを探すよりも自分で作りたかったんですよね。仕事の中にもそういう感覚でいたずらを仕掛けていけばいいん?・・・・です(笑)。

利根川:
なるほど、それはなかなか大胆ですね(笑)。でも、そういった自由な発想こそが新しい可能性を引き出しますよね。

三谷氏:
ええ。ミミミラボも同じように、子どもたちが自由に発想し、型にはまらないことをどんどんやってほしい。ルールを分かった上で、その枠を超えていくのが重要です。はみ出し者こそが輝ける場所であってほしいですね。

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