〜「未来の学校教育を考える円卓会議」レポート〜
こんにちは。みんなのコード政策提言部の田嶋です。
みんなのコードでは、2030年代の新しい教育を見据え、関係者との対話を大切にしながら活動を進めています。その一環として、来年2025年1月19日(日)に「小学校プログラミング教育必修化”もうすぐ5周年フェス”」を開催します!
このイベントでは、これまでのプログラミング教育の歩みを振り返るとともに、2030年代の教育のあり方について議論を深める場を目指します。ネットワーキングの時間も設けており、参加者同士のつながりを深める貴重な時間もご用意しています。
詳細・お申し込みはこちらから:https://peatix.com/event/4233311/view
このイベントを企画するきっかけとなったのが、昨年2023年12月2日に開催した「未来の学校教育を考える円卓会議」(通称:円卓会議)です。みんなのコードでは、2023年を「関係者が一丸となり、2030年代の情報教育の重要性を議論し、提言活動を加速させるべき重要な一年」と位置付け、数多くの対話を重ねてきました。その集大成となったのが、円卓会議です。
円卓会議では、関係者が一堂に会し、それぞれの専門領域を超えた課題や取り組みが共有されました。
本記事では、「未来の学校教育を考える円卓会議」の模様を詳しくレポートします。
※ゲストの肩書きは2023年12月2日時点のものです。
AI時代における未来の学校教育を考える
イベントでは、有識者によるトークセッション、様々な立場の方からの「未来の教育について」のプレゼンテーション、参加者によるネットワーキング・ワークショップの3部構成で進行しました。
第1部:トークセッション
文化庁次長の合田 哲雄さん、株式会社PKSHA Technology 代表取締役の上野山 勝也さんをゲストにお招きし、みんなのコード代表の利根川がファシリテーターとなって意見を交わしました。
産業界と教育現場の話題を行き来しながら、生成AIの進化、AI時代の教育、情報教育のあり方などについて、以下のようなことが話題に上がりました。
- この1年で起きているAIの技術的な変化は、ここ10年で一番激しく、それまでの9年間に起きた変化よりも大きい、「非連続」のもの
- こうした変化の中が起きている中で学習指導要領改訂の議論が始まる
- 教科書による一斉の「サプライサイド」の学びから変化した、子どもの興味関心を引き出す「デマンドサイド」の学びは、本来教員が実現したかったこと。AIの登場により、先生方の手持ちのカードが増えてきている
- AIは今までやってきたものを壊すものではなく、産業界でも教育でも、むしろ世界をエンパワーするツールとして実装すべきで、そのように実装可能
- 他人と同じことができることに価値がある標準化された社会ではなく、人との違いにこそ価値がある社会になっていくことが大切
- 私たちは、World Models(世界モデル)を拡張するのをどこかのタイミングでやめているのではないか
- 自分の世界を広げていくこと、未知のことを面白がれること、それをサポートすることが、今後の教育で重要ではないか
- ソフトウェアがどのような原理で動いているかということを知っておくのは非常に重要となってくる。ソフトウェアの裏にある、作った人の顔を感じられることが大切
第2部:「未来の教育について」プレゼンテーション
「領域を超える」という1部のテーマから派生し、第2部では4名の異なる立場の方々からプレゼンテーションを行っていただきました
公立はこだて未来大学 教授 美馬 のゆり 氏
「変化を起こす主体になる」と題し、まず、社会を映す鏡としての児童書棚をご紹介いただきました。
- アメリカの書店では、子ども向けの棚にSTEM分野の絵本や、女子のステレオタイプを打ち破る絵本などがたくさん並んでいる
- 日本では動物などの図鑑やしつけに関する絵本が目立ち、伝記は大多数が男性、女性では「キュリー“夫人“」などの偏った表現も残っている
AI時代のリテラシーは、
「課題の発見すること」
「AIの仕組みを知り、長所と短所を理解した上でツールとして使いこなすこと」
「情報システムや社会制度をデザインすること」
ではないかと提案いただいた上で、大切なのは、一人ひとりが公正な社会の実現に向けて、変化を起こす主体になることだという、強いメッセージをいただきました。
印西市立原山小学校 校長 松本 博幸 氏
情報教育に力を入れている原山小学校の取り組みについて
- 教科の内容に紐付けた情報教育では、「コンピュータサイエンス」分野がカバーできないという課題感があった
- 情報科学の領域を系統的に学習できるよう「情報探究」の時間を全学年で設けている
- 情報探究を始めてから、子どもたちがいろいろな課題を自分ごととして進められるようになった。何より「目の輝きが違う」
- 教員からも、大変な面はあっても「新しいことを子どもと一緒に学べるのが楽しい」といった声が上がっている
- 今後は、中学への接続に力を入れていきたい
といったことをご紹介いただきました。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター教育事業本部 初等中等教育/EdTech営業部 アカウントエグゼクティブ 尾島 菜穂 氏
イノベーションを生み出すAmazonの企業カルチャー、デジタル人材育成のポイントを紹介しながら、それらのポイントを学校教育に置き換えてみるとどうなるか考えてみようというご提案をいただきました。
例えば
- Amazonには「Leadership Principles」という行動指針があり、立場を問わず全員が「リーダーとして行動すること」を求められる
- 人材育成の観点では、人によって快適な学習方法は違うため、さまざまな学習手段や機会を提供して、社員が選択しながら自律的に学べるようなサポートがされていると
こうした考え方や工夫を、学校現場に取り入れることで、新たな可能性が広がるのではないかという示唆をいただきました。
現代美術作家/ミミミラボコーディネーター 吉川 永祐 氏
みんなのコードと三谷産業株式会社が運営するミミミラボのコーディネーターを務めながら、現代美術作家としても活動を続けている吉川永祐さんからは、「答えのない問い」と題し、
- かつては絵に「正解がある」と思っていたが、次第に「芸術には無数の価値基準がある」と気づいた
- 作品を作る上で大切にしているのは「解を求めるのではなく、問いを立てる」姿勢
といった作家活動の中での気づきをご紹介いただきました。
そうした気づきをもとに、さまざまな子どもたちが、それぞれにミミミラボにいる時間を楽しむには、「利用者の個別の特性、生活と向き合い、価値基準を模索する」ことが大切なのだと考えるに至ったことを踏まえ、「誰にとっての理想なのか、問い続けることが必要」だということを会場に訴えて、プレゼンテーションを締めくくりました。
第3部:参加者によるネットワーキング・ワークショップ
第1部、第2部の内容を受けて、第3部では参加者が少人数に分かれて意見交換を行いました。
参加者からは、以下のような声が挙がっていました。
- コードが書けるということは、比較的簡単に社会を変える力を得られるということだと思う。誰もがコードを書けるようになってほしい
- デジタルの活用から距離を取ろうとする先生を、どのように巻き込んでいけば良いだろうか
- 現在は生成AIを作る側になるにはどうしたら良いのか、という議論が足りていないのでは?
- 学校内で熱意を持って何かを進めようとしている人が、ストレスなく取り組めるような組織づくりが必要だ。現状は、管理職の考えに大きく依存する場面が多いと感じる
- 社会全体で、創造性を大事にする教育への転換を考えなければいけないのではないか
明日へのプレゼント
イベントの最後に、参加者の方には、第3部までの気づきを踏まえて、
- 子どもたちにプレゼントしたいもの
- もし明日、自分が子どもに戻ったら、欲しいもの
のいずれかを、記載いただきました。たくさんの声が寄せられましたが、その一部をご紹介いたします。
“みんな”の対話が必要
昨年のイベントを経て、改めて未来の学校教育には”みんな”の対話が必要であると改めて感じました。以下は、参加者からのアンケートの抜粋です。
- 登壇された全ての方が情熱に満ち、官民共に未来の解のないものに対して自身も挑戦しながら、次代も視野に入れて育成し、より良いものにしていこうとしているのがよくわかった
- 現場にいると目の前のことに追われてしまうので、こういったセミナーに参加することは自分にとって、そして学校や子供たちにとって、必要な時間だと改めて思った
- テクニカルと教育双方の視点から、AIの未来をとらえることができた。各分野の登壇者の発表・ワークショップと、全体から個に落とし込む内容構成がよく、アップテンポで常にワクワクしながら参加できた。ワークショップでは、グループメンバーが多様なステークホルダーで、それぞれの立場からの視点がとても新鮮・刺激的で、新たな考えにハッとする瞬間の連続で、非常に楽しかった
領域を越えた対話は、新たなアイディアや価値を創造することにつながるのだということを、今回のイベントを通じて実感しました。