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知識があれば、AIを必要以上に恐れたり軽視したりする必要はない

〜日本女子大附属中学校での生成AI授業実践〜

みなさん、こんにちは!みんなのコードで中学校の担当をしている千石です。私はみんなのコードで主に中学・技術科の教材やカリキュラム開発、そして先生方に向けての研修などを担当しています。

前回の記事では、日本女子大学附属中学校との連携協定の経緯や各学年の大まかな取り組みについて、お伝えしました。

今回からは具体的な内容や生徒・先生の反応などについてご紹介したいと思います。

まず、今回の記事では、2023年9月と2024年4、11月に行った3年生の授業について紹介します。

中学生でもAIについて学習する必要ある?

日本女子大学附属中学校では、2023年から3年生が生成AIについて学習しています。これは急速に発展する生成AIをブラックボックスとしてではなく、プログラミングと同様に課題解決の手段の1つとするためには、中学校段階からしくみや使い方について学習するべきと考えたからです。

2023年7月に文部科学省が発表した初等中等教育段階における 生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインでも「⽣成AIが、どのような仕組みで動いているかという理解や、どのように学びに活かしていくかという視点、近い将来使いこなすための⼒を意識的に育てていく姿勢は重要である」とあります。 
※2024年12月に改訂された「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドラインver.2.0」(以下、ガイドラインver2.0)にも「生成 AI の仕組みの理解や、どのように学びに生かしていくかという視点、近い将来使いこなすための力を各教科等中においても意識的に育てていく姿勢は重要」と記載されています。

日本女子大学附属中学校3年生の授業でAIに関する授業は、大きく3つに分けて指導しました。
1つ目はAIとは何なのか?どういったことができるのか?といった概要について。
2つ目は画像認識AIを活用した学習。
そして、3つ目は文章生成AIを活用した学習です。

文部科学省の初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインでは、
①生成AI自体を学ぶ段階
②使い方を学ぶ段階
③各教科等の学びにおいて積極的に用いる段階
を意識して指導することを求められていますが、①と②の部分について学習を行いました。特に①の生成AI自体を学ぶ部分については、教師あり/なし学習や強化学習など、AIの基本的なしくみを学習しました。

※ガイドラインver2.0では、児童・生徒の生成AIの利活用場面として、「生成 AI 自体を学ぶ場面」、「使い方を学ぶ場面」、「各教科等の学びにおいて積極的に用いる場面」等が挙げられており、これらは段階、組み合わせたり往還したりするものと記載されています。


ただし、「基本的なしくみ」といっても、中学生は行列など高度な数学を学習していないので、どこまで触れるのか?という点については今後も幅広い議論が必要だと考えています。

単元の流れ

限られた授業時間でしたが、昨年度は6時間、今年度は10時間の授業で以下の内容を学習しました。

2023年(9月に6時間)

  • 1〜2時間目:AIの基礎、教師あり/教師なし学習について、強化学習について、バイアスの問題について
  • 3〜4時間目:Scratchの基本、画像認識AI(Teachable Machine)、ML2ScratchとScratchを組み合わせたジャンケンゲーム作り
  • 5〜6時間目:他の学校で実施したChatGPTを利用した授業をブラッシュアップした活動、大規模言語モデル(LLM)の基本的なしくみの理解
▲ジャンケンゲームを作る3年生の生徒たち

2024年度(4月に4時間、11月に6時間)
2023年の年度末に振り返りを行った際に、ChatGPTやLLMの活用を他教科でも進めたいというリクエストがあったため、2024年度は、4月に前年度5〜6時間目の内容に画像生成AIの内容も追加して4時間実施しました。

さらに11月には、前年度1〜4時間目のプログラミングを中心としていた学習の時間も6時間へ拡充して実施しました。

社会科公民でも「みんなで生成AIコース」を使ってみた

初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン「③各教科等の学びにおいての積極的な活用」については、2023年に社会科公民での学習に「みんなで生成AIコース」を活用しました。

具体的には、生徒たちが社会福祉政策において「大きな政府派」と「小さな政府派」に別れてディベートをする際に、いきなりディベートを始めるのではなく、みんなで生成AIコースを相手にディベートの練習をしたり、ネタを取り入れたりする活動を行いました。

生徒たちはメリット・デメリットを質問しながら「救急車が有料になったらどんな問題が生じますか?」「大学まで授業料が無料になるとどんなメリットがありますか?」など、ディベートで発言する内容をAIとの対話の中から調べ、理解を深めている様子が見られました。

こうした学習活動は、社会科だけでなく今後様々な教科で広がっていくと思いますし、その基本となるしくみや使い方はしっかり技術科の中で学習する必要があると考えます。

▲クラスメイトと生成AIの発言を議論する様子

女子の苦手意識を作り出していたのは私ではないか?

今回、日本女子大附属中学校での実践を通じて、反省したことがあります。

それは、これまでの技術科の学習内容、プログラミングの教材やカリキュラム作りにおいて、作り手側の都合や視点が優先されてきたのではないか?ということです。

大人は勝手に女子はコンピュータが苦手、プログラミングに興味がない、と思い込んでいないでしょうか?確かに文理選択状況や就職状況を見てみると、結果としてそうなっていますが、その原因を私たち先生や学校が作り出しているのではないでしょうか?

教科書を作る人、教材を作る人、指導をする人、みな男性ばかりで、教室の半分を占める女性の意見や考えを取り入れて来なかったのでは?と…。

そこで今回私たちが提供する教材を、女性の先生が、女子生徒に教えると、どのような影響がでるかという点も調査しようとしています。細かな分析はこれからになりますが、私たちの支援した授業を受けた中学生たちへのアンケートで「プログラミングやコンピュータに関する授業は、好きですか?/得意ですか」という質問に対して肯定的な回答が授業後の方が増加しています。

こういった観点については、公立の共学校でも実証授業を進めていく中で、先生側の課題なのか、教材側の課題なのか、女子校と共学校の環境の違い等で差が出てくるのか、考えを進めていきたいと考えています。

中学生の反応は?

生成AIについて学んだ女子中学生からは、以下のような反応が寄せられました。

AIと上手に関わることが出来れば、自分の能力以上のものを生み出せるのだと思った。しかし、結局は正しい判断やAIへ学習させることは人間が行うため全てを任せられる訳ではなく可能性の幅を広げる目的で利用することが大切なのだと学んだ

人間が考えずにAIに頼ってしまうことは違うと思う。AIにだってできないことが有るので人間らしさというものがなくならない、AIとの共存はとても複雑な問題だと思った。AIにあまり頼りたくないと思っていた私も実際に授業を通して触れてみることでAIのメリット、デメリット、面白さなどが知れたので良い経験になった

幼い頃から身近にAIを使ったものが溢れている今の私たちにとって、今のうちにAIはどんなものなのか、問題点は何かなどを学ぶのは大切だと思う。ただ知識として学ぶだけでなく、実際に(生成AIを)使ったことで扱いの難しさや、ミスすることもあるということをしっかりと理解できた

昨今話題になっているAI、特に生成AIについて学べてとても良かったと思う。技術は日々進歩しており、日常生活で全てを追うことはできないが、基礎的な知識があると必要以上に恐れたり軽視したりすることがなくなるからだ。また、純粋に面白かった。

事後アンケートを見ると、ほぼ全ての生徒が中学校段階から生成AIを学ぶことの意義を感じたようでした。

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