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いよいよ始まった大学入学共通テスト「情報」!フィッツの法則におつり計算? やっぱり面白い

こんにちは。みんなのコードの永野です。私は高等学校「情報I」に関する教員研修を主に担当しています。

2025年1月、ついに、大学入学共通テスト「情報」が初めて実施されましたね。

これまでにもサンプル問題や試作問題について記事を書いてきましたが、実際の本試験の内容はどんなものだったのでしょうか?

今回はその内容について振り返ってみます。

第1回共通テスト「情報」の実施

大学入学共通テスト「情報」は、2025年1月19日(日)17:00〜18:00にすべての試験の最後の科目として実施されました。受験生および、関係者の皆さんは2日間朝から夕方まで、大変だったことと思います。本当にお疲れ様でした。

大学入試センターの中間発表では、平均点は73.1点だったとのことです。私は、もう少し平均点は低いのではないかと予想していましたが、素晴らしい結果ですね。先生方のご指導と受験生の皆さんの頑張りがうかがえます。

試験前は地域等によって「情報」の指導に大きな格差があり、試験にも影響するのではないか、との懸念も聞かれました。しかし、実際には平均点の標準偏差は他教科と比べて大きくありませんでした。全教科中でも高い平均得点であり、試験後にネット上からは「簡単だった」という受験生の声も聞かれました。

実際の問題はどんなものだったか

以前の記事で、サンプル問題や試作問題では「高校生にとって身近なテーマを扱った問題解決」が出題されており、「良問」だと書きました。

参考記事:ついに始まる!高校生に問われる新たな力!大学入学共通テスト「情報」の問題が面白い?

それでは、実際に出題された問題はどうだったでしょうか。

第1問で印象に残ったのは次の問題です。マウスカーソルが図の位置にあった時、最も短い時間で指し示すことができるのは⓪〜③のどれか、という問題です。

                  2025年度 大学入学共通テスト 「情報I」より

問題では、

・対象が大きいほど早い時間で到達する。
・対象が近いほど早い時間で到達する。
という前提情報が示されています。

これだけ見ると、①と②が同じくらいの距離で近く、①の方が大きいので最も早く移動できるのは①のように思えます。

しかし、問題では「端にある対象物は実質的に大きさが無限大になる」という情報が追加されます。

「『実質的に大きさが無限大』ってどういう意味??」と感じるかもしれませんが、実際の操作を想像するとわかりやすいです。マウスを水平や垂直に動かすと、画面の端ではマウスカーソルは止まり、それ以上いくらマウスを動かしても、マウスカーソルは同じ位置に滞在し続けます。

例えばディスプレイの右上角に対象物がある場合、マウスを右上方向に大きく動かしても、右上端の対象物を通過してしまうことはありません。このことを「大きさが無限大」としているわけです。

大きさが「無限大」となれば、最も早くクリックできそうなのは隅にある②か③ということになります。

ユーザインタフェース上、②と③はほぼ同じ条件と言って良い気がしますが、僅かに③より②の方がマウスカーソルに近いので、答えは②となります。

問題には明記されていませんが、これは「フィッツの法則」と呼ばれる人間工学に基づいたインタフェースデザインの法則です。

アプリやサービスを使っているだけではなかなか気づきませんが、「アプリを作る側の人は利用者のためにこんな工夫をしていたのか」と感じ取ることができる問題ですね。

これからの時代は、他者の作ったものを消費するだけでなく、「自分でもWebサイトやアプリを作ってみよう」という創造的な態度が求められます。利用者としてだけでなく、「作る側の視点」を取り入れた良いテーマだと感じました。

レシートに記載されている「情報」とは?

第2問のA問題では、「情報システム」が取り上げられました。
コンビニやスーパーマーケットで利用されている販売時点情報管理、いわゆる「POSシステム」ですね。

       2025年度 大学入学共通テスト 「情報I」より

レシートにはさまざまな情報が記載されていますが、消費者のニーズや無駄のない仕入れにつなげるには、これらの情報のどれとどれを組み合わせればよいだろうか、また、顧客、店舗、本部、配送センターの間でやりとりされる情報にはどんなものが含まれるか、という問題です。

こちらの問題も、日常誰もが目にする「レシート」を題材に、「情報」と「私たちの生活」の関わりを実感させる問題となっています。

おつりの千円札を何枚用意する?

第2問のB問題は、必要なおつりの枚数について考える問題でした。

6000円を10人から集めます。一万円で払う人が70%、千円札6枚で払う人が30%だったとしたら、千円札をどのくらい用意しておけば困らないか確かめてみようというシミュレーションの問題です。
※五千円札1枚と千円札1枚で払う人はいないという前提でした。

最初の人が千円札6枚で払ってくれるといいのですが、いきなり一万円札で払われてしまうと、

「千円札がないよー。ちょっとおつりができるまで待ってね」
みたいな状況になりますね。懇親会の幹事がよく出くわすシチュエーションです(笑)

それは冗談として、このような集金の問題も高校生が実感しやすい身近な話題です。必要なおつりの枚数を、「勘」ではなく、10000回シミュレーションして確かめてみようというのが「情報」っぽくていいですね。

    2025年度 大学入学共通テスト 「情報I」より

シミュレーション結果では、千円札が最大で20枚足りなくなったケース(最終的な不足枚数ではない)が一番多いという結果でした。グラフを見ると10人全員が一万円札で払ったケース(千円札が40枚足りなくなる)も10000回のうち300回以上あったことがわかります。1度も足りなくなることなく集金できたのは800回程度あったようです。

このシミュレーション結果はあくまで確率的な試算なわけで、実際にその通りになるとは限りません。現実の世界では想定外なことが起こることもあるわけです。シミュレーション結果を踏まえ、20枚おつりを用意したとしても、どんなケースは起こる可能性があり、またどんなケースは起こり得ないか、についても考えておきましょうという実践的な問題になっていました。

第1問、第2問のここまでが前半の問題です。
次回は、後半の第3問「プログラミング」と第4問「データの活用」の問題について記していきたいと思います。

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