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大学入学共通テスト「情報」が伝えた学びの本質

〜テクノロジーを“使う”だけでなく“活かす”力〜

こんにちは。みんなのコードの永野です。高等学校「情報I」の研修等を主に担当しています。

2025年1月、大学入学共通テスト「情報」が初めて実施されました。前回は前半の問題「情報デザイン」や「情報システム」、「シミュレーション」の問題について振り返りましたが、今回は後半の第3問「プログラミング」と第4問「データの活用」について書いていきたいと思います。

「プログラミング」と「データ活用」は「難しそう」「苦手」「不安」とする人が多い分野です。実際にはどのような問題が出題されたのでしょうか。

誰がいつまでに作業するか予定を立てよう

文化祭に展示するため、9種類の工芸品を工芸部の部員3人で製作するスケジュールを作るという問題でした。

9種類の工芸品はそれぞれ製作日数が異なります。このテーマもなかなかリアリティがありますね。

例えば、部員1が製作に4日かかる ”工芸品1” を作ったら、部員1が次の工芸品を作れるのは5日目からということになります。これを「空き日」とします。

このように、前の製作が終わり、「空き日」となっているのが一番早い人は、3人のうち誰か。そして、その人が次に製作するのはどの工芸品(工芸品は1から9までを順に作ることになっている)で、何日目から何日目に作業すれば良いか、を割り当てるわけです。

共通テストのプログラミング問題で特徴的なのは、いきなりプログラムを扱わないことです。先ほどの、これからどのような処理を行うのかという説明部分が、問題のはじめに扱われます。

2025年度 大学入学共通テスト 「情報I」より

例えば問題中の図で、 ”工芸品4” までのガントチャートが示されており、「 ”工芸品5” は部員「ウ」が「エ」日目から「オ」日目」という穴埋め問題になっていました。

“工芸品5” は、表を見ると作るのに3日かかります。
(解答は ウ:2 、エ:3、オ:5)

このように、「これから行う処理の流れがわかっていますか?」という確認作業そのものが問題となっており、プログラムの目的が丁寧に確認されてから本題に入っていきます。

プログラムは日本語を使った「共通テスト用プログラム表記」で表されます。

これは、学校現場ごとに授業で扱われるプログラミング言語が異なるため、特定の言語を使わず汎用的に表記するためです。(ただし、記述の形式はかなりPythonに近いといえます。)

2025年度 大学入学共通テスト 「情報I」より

プログラムは繰り返し処理が「入れ子構造(二重ループ)」となっています。前述の事前確認問題をもとにプログラムの流れをしっかりと理解していれば、それほど難しくはありません。

部員1,2,3のうち、最も「Akibi(空き日)」の小さい人が次の工芸品の「tantou(担当)」となります。「Akibi」 から作業をはじめ、「Akibi + その工芸品の作業日数 -1」日目までがその工芸品の作業期間となります。

終わりの日数を「-1」するのがポイントですね。

例えば3日目から作業を始めて、製作に3日間かかる工芸品5の場合、結果として期待される表示は「3日目から5日目まで」です。はじめる日「Akibi」「3」と工芸品5の作業日数「Nissu」「3」を単純に足すと「3+3 = 6」になってしまいます。終わりの日を示す数字は、「Akibi」と作業日数の「Nissu」を足し算した結果から「1」を引いた数となるというわけです。また、単純に足した「6」は作る人の新たな「空き日」として使えますね。

理系的な数値処理が目的ではなく、人の動きである「スケジュール」をプログラムで作成するというなかなか面白いテーマの問題でした。

プログラミング問題の余談

あまり問題の本質には関わらないのですが、以下は細かな点で気になった部分です。

まず、変数の名前の付け方です。

共通テストでは、サンプル問題、試作問題、本試験とも日本語の言葉をローマ字つづりで表したものとなっていて、ぱっと見てなんのことかわからない変数名があるのも事実です。(例: Nissu :「日数」 kougeihinsu:「工芸品数」 Akibi:「空き日」 buin:「部員」)

これは「あくまで『情報』の試験なのだから『英語能力』は問うべきではない」という配慮なのだと思います。でも、「buin(部員)」の変数名は例えば「members」などの方がかえって自然でわかりやすいような気もします。

もう一つ気になったのは、サンプル問題、試作問題ともこれまで「0オリジン」だったのが、今回の本試験では「1オリジン」になっていたことです。
(注:プログラム上の数え方の違いで、プログラミング言語によって異なる。0,1,2と数えるのが「0オリジン」、人間と同じように1,2,3と数えるのが「1オリジン」。現代では「0オリジン」のプログラミング言語が一般的で、歴史の古いプログラミング言語のFortranやCOBOLなどでは「1オリジン」でした。(現代でも「R」などは1オリジンです。))

これもまた、冷静に問題の指示に従えばわかることではあり、大きな問題ではありません。

ただ、プログラムの仕様として年度ごとに変更するのはちょっと不自然な気がします。また、生徒たちは小中学校で学んだと思われる「Scratch(1オリジン)」から、高校に入って「Python(やJavaScript)は『0』から数え始めるんだぞ!」と先生から口を酸っぱくして言われ、慣れてきたところだったのではないでしょうか。

先生方も試作問題を踏まえ、「0オリジン」を強調していたと思います。受験生の中には、「え?1から数えるの?」と少し混乱した人もいたかもしれません。

確かに、「0オリジン」は操作が余計に必要になることがあります。例えば「最初」を示す時、「0番目」という表示は人間とっては不自然なので、「変数に1を加算してから表示」するなどの処理が必要になることがあるからです。今回の本試験では少しでも難易度を下げ、よりシンプルに考えられるよう「1オリジン」としたのだと思います。どちらにすればいいのか悩ましいですね。

受験生は「0オリジン」か「1オリジン」か、今後実施年度によって変わる可能性がありますので、ちょっと気に留めておいた方が良いかもしれません。

旅行者は何をしに来る?

第4問はデータの分析に関する問題です。

試作問題の傾向からも、第3問がプログラミング、第4問はデータの分析で、第3問と第4問で全体の50%程度の配点を占める、というのが今後も傾向として見られそうです。

今回のテーマは各都道府県の「旅行者の傾向」を分析するものでした。

「旅行者」とは県外からやってくる人の数のことで、その内訳は「出張等」「帰省等」「観光等」に分けられています。

例えば、地方ごとに見た場合、人数で比較すると関東は他の地域に比べ圧倒的に「観光」で訪れる人が多いことがグラフから読み取れます。しかし、人数でなく割合で見ると、訪れる人のうち最も「観光」の割合が大きいのは沖縄で、さらに中部地方や北陸地方も関東より大きい割合となります。このような基本的なグラフの読み取り方の問題から始まりました。

2025年度 大学入学共通テスト 「情報I」より

また、「出張」と「帰省」、「出張」と「観光」、「帰省」と「観光」のそれぞれの組み合わせによる散布図とその相関係数が示されました。

それぞれ「0.84」「0.67」「0.79」という相関係数で、いずれも正の相関(一方が多くなるともう一方も多くなる傾向)があることがわかります。

その上で、「各都道府県で観光地をアピールすることで観光等の旅行者数を増やすことができれば、帰省等と出張等のいずれの旅行者数も増える」という判断は正しいか?という問いがありました。一見すると、間違いではないように思えます。

確かに「観光で訪れる人が多い県は、出張や帰省で訪れる人も多い」という相関関係はあります。しかし、「観光で訪れる人が増える『から』、出張や帰省者数も増える」という因果関係までは証明されていません。(必ずしも「観光者数」が要因とは限らない)

この問題は「相関と因果関係」は区別して考える、というデータ分析の大事な基本姿勢を確認するものでした。

このように、「情報」で扱うデータの分析で大切なのは、複雑な統計計算ができることではありません。統計値の計算やグラフ作成について、「統計値の数式を覚えたり、表計算ソフトの使用方法を覚える」ことは「情報」の学びの本質ではない、ということです。

ソフトウェアの操作などは、忘れてしまったらその都度調べれば良いのです。

テスト問題からも、統計値やグラフは何を示しどんな傾向があり、そこからどんなことが言え、そしてどんなことは言えないか、と考察することが大事だという意図が読み取れます。

共通テストと「情報」の学びの関係

大学入学共通テストへの「情報」新設の発表から、世間では歓迎する声や不要とする声、様々な意見が飛び交ってきました。

私が今回の共通テスト問題を解いてみて率直に感じたことは、「情報は社会のあらゆる場面で利用されており、それを享受するだけでなく、自らも活用して社会をより良くしていけることに気づいてほしい」というメッセージです。

これは、共通テストだけに限らず、教科「情報」の目標そのものです。

「共通テストに出るから『情報』を学ばなければならない」のではありません。

「情報」は、「情報技術を活用して主体的に問題解決を図っていこうとする」人々を育てるための学びです。これは、これからの社会を生きる上ですべての人に望まれる資質・能力であることから、大学入試でも導入されたわけです。

今回の問題は、ペーパーテストとしては最大限工夫されているものであったと思います。

しかし、あくまでもマークシートの選択問題であり、将来的には、CBT(コンピュータを利用して回答するテスト)の導入も必要でしょう。

今回も触れられた「情報デザイン」や「プログラミング」など、色や動きなども扱ったり、実際にプログラムを書いて回答したりするなど、より自由度の高い実践的な問題が実現したら、より「情報」の目標に即したものになることでしょう。

しかし、いずれにしても「入試」だけでは、「創造的」な態度は育ちません。

日々の授業では、問題を自分で設定したり、プログラミングをしたり、実際のデータを使って分析したりするなど、試行錯誤しながら実際に問題解決に取り組む学びが不可欠です。

受験生としては、目の前の「テスト対策」で頭がいっぱいになってしまうのは仕方がないことかもしれません。しかし、少なくとも先生方を含め私たち大人は、これからの世界の変化と若者の将来を見据えて、子どもたちの成長を支えていかなければなりません。

より充実した、そして小・中・高等学校でのより良い「情報」の学びが実現できるよう、みんなのコードはこれからも先生と子どもたちを支援していきます。

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