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みんなのコードマガジン

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「つくることで学ぶ」は世界共通の情報教育のありたい姿?

Asia Pacific Computer Education Conference⑤

こんにちは。みんなのコード政策提言部/未来の学び探究部の田嶋です。私は元々文部科学省で勤務していた経験を生かし、学校教育部門の実証研究などをマネジメントしつつ、そこで得られた成果を政策立案者へ届けています。

2024年11月、みんなのコードはAsia Pacific Computer Education Conference と題した4日間のイベントを実施しました。

学びの多い4日間でしたが、帯同して特に感じたことは、参加者のほとんどが「つくることで学ぶ」を大切にしている、ということでした。今回は、この観点でカンファレンスを振り返ってみたいと思います。

みんなのコードが大切にするのは「つくることで学ぶ」

みんなのコードが2024年7月に公表した「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案」では、「創造」・「表現する学び」について以下のように言及しています。

より重要であるのは既成の概念だけにだけにとらわれず(学校が)、多様な発想と価値観を互いが認め合い、個性豊かな資質・能力が社会の中で花開くことを支援するための場となることであり、そのためには表現と創造的な活動を学習活動の中心に置く必要がある。

特に情報分野においては、何度も試行を繰り返しながら目標に近づいていく活動が求められており、これは初等中等教育段階の授業においても同様のことがいえる。

(中略)

次の世界に生きる子供たちにとって、より能動的、主体的に問題を発見し・解決を図っていく資質・能力を育成するには、「つくることで学ぶ」ことが学習の重要な観点となるべきである。

こうした「創造」・「表現する学び」への思いは、カリキュラムモデル案の「基本方針」にあたる部分を執筆した永野・宮島による「2030年代の情報教育〜つくること・表現することを通した学びを目指して〜」もご覧いただければと思います。

永野:私が高校の情報科で教員をやっていたときから、生徒が新しいアイデアを考えることとか、何か面白いものを作ってみようという気持ちを大切にしたいということが根底にあります。
(中略)
誰かに言われた通りにやるんじゃなくて、面白いことをやりたいという感覚はこれからの時代とても重要になるんじゃないかなっていう気がします。

宮島:これまでの学校教育では、作り方を教わってから作っていた。ところが、創造的な学びは、作りながら学んでいくわけです。その順番が逆転するというところが、創造的な学びの意味だと思ってるんです。

各国も大絶賛!宮城教育大学附属小学校の創造的な授業

今回、海外ゲストと一緒に見学した授業は、どれも「自分でつくりたいものをつくる」という共通点があり、このような授業の在り方に参加者がとても共感していたように見えました。

特に印象的だったのは、宮城教育大学附属小学校での授業です。この学校は現在、文部科学省の研究開発学校の指定を受け、小学校情報科の構築を目指した研究開発を行っています。今回見学した小学校5年生の「インタラクティブアート(人の動作や動きなどに反応して変化する芸術作品)にチャレンジ!」の単元には、以下のようなねらいがありました。

  • 小学校情報科を中核に、図画工作科や算数科、理科と関連付けた学習(STEAM)を通して、教科等の学びを総合的に活用した問題解決力を育成する
  • 身の回りには多様なセンサがあることを捉えるとともに、センサは周囲の情報を収集し、機械が取り扱うことのできるデータに置き換えて活用していることを理解する
  • 子供の持つ創造性と情報技術とを組み合わせて、問題解決する意欲を高める

この授業中、一人の児童が、「自分の作品に対してアドバイスをいただけませんか?」と海外ゲストに自動翻訳ツールを用いて話しかけていました。
聞かれた海外ゲストは「大切なのは自分が何を作りたいかです。そのつくりたいものになっているかどうか、考えてみましょう」と返し、児童はまた制作に戻っていきました。

▲音声入力を用いて児童にフィードバックする参加者

参加者への事後アンケートでも、この授業へのコメントが多く見受けられました。

  • インタラクティブな授業が印象的だった。児童がテクノロジーと積極的に関わる姿が素晴らしかった
  • アートとテクノロジーを組み合わせ、デザインも非常に工夫していた。(協議会では)このような授業が可能になるよう、教師が自身の学びを高めていこうとする姿勢も見ることができて感動的だった
  • 学校訪問の中で最もエキサイティングだった。子どもたちは、プログラミング、micro:bitなどを駆使し、とてもクリエイティブで革新的な姿を見せてくれた。子どもたちは自らアイデアを生み出し、問題を解決する能力を持っていたし、教師はこのような学びに対して、サポートする姿勢を見せてくれた

自分がつくりたいものをつくりあげるために試行錯誤を重ね、その中で体験的に情報科の力を身につける姿は、参加者の大きな驚きと感動を与えたようです。海外から見ても、「つくることで学ぶ」が凝縮された授業が賞賛されたことを、大変嬉しく感じました。

また、この授業の様子はニュースでも取り上げていただきました。実際の授業の様子をぜひご覧ください!

「創造性」「つくることで学ぶ」姿は、なぜ重要なのか

2日間の授業見学で、参加者は創造的な授業・つくることで学ぶ子どもの姿に価値を感じたはずです。最終日のカンファレンスでは、参加者のプレゼンテーションを通じて、こうした姿がなぜ重要なのかを語り合う場になりました。

まず、OECD教育研究革新センター(CERI)の政策アナリストで、「クリエイティブ・シンキング(創造的思考)」を担当するのCassie Hague氏が「Why is the fostering creativity essential in an age of AI(なぜ、AI時代に創造性を育むことが必要なのか)」と題した基調講演を行いました。その中で「創造性と批判的思考を育む授業デザインの8つのポイント」を紹介してくれました。

1つ目に「児童生徒の『学びたい』というニーズや興味を引き出す」、4つ目に「『作品』づくりを取り入れ、その取り組みを可視化する」とあるように、自らの興味関心に基づいて「つくることで学ぶ」ことが大切であることを裏付けてくれたと思います。

Cassie Hague氏の記事はこちら:学校で創造的思考・批判的思考を育むために必要なことは? OECDの政策アナリストHague氏に聞く

Code.orgのCAOであるPat Yongpradit氏は、「The Future of Computer Science Education in an Age of AI -Making the Most of the AI Opportunity-(AI時代におけるコンピュータサイエンス教育の未来 -AIの可能性を最大限に引き出すために- 」と題して、

  • プログラミングを学ぶ目的が、プログラムを作ることだけだというのは誤解
  • 創造性を発揮して何かをつくること、学ぶことの楽しさを引き出すことが、プログラミングを学ぶ目的であると考えれば、AI時代にもプログラミングを学ぶ意義は十分にある
  • これからのコンピュータ・サイエンス教育は、子どもたちに、ワクワクして印象に残る、実社会とのつながりを見出せる体験が必要になる

など、AI時代でもプログラミング・コンピュータサイエンスが必要な理由を、創造性・つくることの喜びと関連づけて講演してくれました。

インドネシアで、幼稚園から高校の子どもたちのコンピュータサイエンス・技術教育を支援し、子どもが楽しみながら体験的に学べるプログラムなどを提供する非営利団体Codeing Bee Academyの代表 Catherine Alimsyah氏は、

  • インドネシアの教師は知識の暗記には長けているが、コンピュータサイエンスを創造的に教えることが得意な人は多くない
  • そこで、教師がよりクリエイティブに指導できるようになることを目指し、研修を実施している

と、創造的な学びを実現させるためには、教員の役割が重要であるということにも言及していました。

AI時代にますます重要となる創造性、つくることで学ぶ姿勢を、アジア各国の参加者と語り合えたことは、私たちにとっても貴重なことでしたし、改めて、このような学びが現場で実現するためのサポートがしたいという想いを強くすることとなりました。

番外編:プロジェクトマネージャーの目線から

みんなのコードのビジョンの一つに「やってみよう」があります。新しい価値を生み出す私たちでありたいチャレンジがないと新たな仕組みはできないなどの想いが込められたビジョンです。

今回のカンファレンスは、みんなのコードにとっても、プロマネを担当した私にとっても、大きな「やってみよう」でした。

構想段階では、国内にも様々な課題がある中で、アジア各国に取り組みを発信すること・情報教育のコミュニティを作っていくことを、「今」「私たちが」本当にやるべきなのだろうかと逡巡することもありました。

熱意のある先生方は、「新しいことをやらない理由を探すのは簡単だし、実は「やりたくない」を正当化したいだけ、ということもある。子どものために必要だと思うことを、自分もワクワクしながらまずはやってみることが大事」とよくおっしゃっています。

正直なところ、構想段階では「やらなくても困らないし、英語は得意じゃないし、そもそも他の業務も忙しいし・・・」という、「やりたくないを正当化するための言い訳」がなかったといえば嘘になります。

それでも、代表の利根川の熱意と、「やってみよう」のバリューに後押しされ、

「もしかしたら面白くなるかもしれない」
「自分の学びや成長につながるかもしれない」

という、ほんの少しの好奇心を頼りにプロマネを引き受けました。

砂嵐の中をもがくかのような、怒涛の準備期間を乗り越え、参加者がお互いに学び合う姿を目の当たりにしたり、海外から見た日本の教育の良さを熱く語ってもらったり、各国共通の課題についてに頭を悩ませたりした時間は「やってよかった」と思えるものでした。

情報教育の推進について、同じ志を持った仲間が、国内だけでなく国外にもいる。彼らも日々、理想と現実の間で悩みながら奮闘している。

この実感を糧に、今後も現場のための活動を進めていきたいと思います。

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