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みんなのコードマガジン

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これからの小学校プログラミング教育の話をしよう

〜学びを表現する手段として〜

こんにちは、元みんなのコード 未来の学び探究部 特任研究員で、現在は広島大学大学院で特命助教をしている宮島衣瑛です。

2025年1月19日に「小学校プログラミング教育必修化もうすぐ5周年フェス」(以下、小学校フェス)を開催しました。

後編では、私が担当した「これからのプログラミング教育を考えるパート」についてお届けします。私の基調講演については、日経XTECHさんから詳細がレポートされているので、こちらをご覧ください。
小学校プログラミング教育必修化から5年、「ああ、ネコのやつね」の先に進むには

これからのプログラミング教育〜つくること・学ぶことの歓びを目指して〜

私は、みんなのコードに入社した2022年から3年にわたって「学びの作品化」と題した研究プロジェクトを担当していました。これまでのプログラミング教育は、学習指導要領に代表されるプログラミング的思考の育成やエンジニアになるための職業教育的側面、コンピュータサイエンスの一部としてアルゴリズムなどを学ぶプログラミング教育など様々な種類がありました。

しかし、プログラミングは本来コンピュータを使ってモノを作る、なにかを表現するための手段であると私は考えています。学校教育で行われるプログラミング教育からは「表現」や「創造」という観点がどうしても抜けてしまいがちです。

そこで、各教科等で学んだ内容をプログラミングを用いて作品にすることで、学習内容を表現する手段としてのプログラミング教育、というコンセプトを考えました。これが「学びの作品化」です。

子どもたちは、学んだ内容を作品にする過程で、作品そのものへのこだわりから学習内容を自発的に深堀りし、多くのことを自ら学ぶことがわかってきました。

図1 学びの作品化のメカニズム(筆者作成)

プロジェクトでは3年間にわたり複数の学校にご協力いただきながら実践研究を積み重ねてきました。その成果の一部は、宮島・中村・黒瀬(2023)、宮島・中村(2024)、宮島(2024)として公開されています。
https://speakerdeck.com/kiriem/jaet2023
https://speakerdeck.com/kiriem/jaet2024

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/48/Suppl./48_S48124/_article/-char/ja

また、学びの作品化の研究を進めている最中に登場した生成AIが教育にどのような影響を与えるのかについても議論を重ねてきました。特に、生成AI時代における「消費」と「創造」について焦点を当てています。

図2 生成AI時代の「消費」と「創造」の問題(筆者作成)

生成AIの登場によって、これまで創造的な活動をしていたクリエイターたちは生成AIを使いこなしながらよりおもしろいものを作ることができます。また、アイデアはあるものの実装するスキルがなかった中間層も、生成AIによって作ることができるようになるため創造層に移行します。

しかし、アイデアもスキルもない、消費しかすることができない人々は、生成AIによって作られた質の低いコンテンツをAIによるレコメンドにしたがってただただ消費するしかなくなってしまい、消費層に押し留められてしまう危険性があります。

もちろん、消費的な活動が悪いわけではありません。しかし、創造的であるということはウェルビーイングの観点からも大切なことですし、そもそも学ぶことは創造的であるということです。

これからの教育には、消費層から創造層に移行するための創造的態度を身につけることがより一層求められているといえるでしょう。私たちは、そのための手段の1つとして、プログラミング教育のあり方が変わるべきだと考えています。

小学校のプログラミング教育は、いわゆる「プログラミング的思考」を育むために行われていますが、子どもたちがコンピュータを使って創造的な活動ができる機会として捉え直すべきでしょう。前編で語られてきたようなプログラミング教育をしっかりと引き継ぎつつ発展させていくのが私たち若手の責任です。

”学びの作品化”の奥深さ

続いて、学びの作品化研究会のメンバーによるパネルディスカッションが行われました。まずは、東京学芸大学附属竹早小学校 教諭 中村亮太先生(2025年1月時点)から3年間の実践を振り返って、作品化にはどのような意味があるかご発表いただきました。

作品化とは、自分で語り直すこと、語り変えること。

中村先生は、作品化とは「自分で語り直すこと、語り変えること」であると表現されました。

語り直すことは要素を再構成すること自分で語り直したり、語れる形に直したり、語れる部分を探してぐるぐるしたり、そういう生き方の経験が、作品化することでできると言います。作品化の授業をやったあとには、子どもから「さっきの授業でやったこと、プログラミングで作りたいんだけどいまからやっていい?」「先生、さっきの授業のやつこういうプログラムでかいてみたいんだけどどうかな?」といった要望が自然と生まれていたといいます。これは、作品化に取り組む子どもたちが授業のなかで「わかった」とも「できた」とも違う、別の軸が生まれることを意味しています。

そのような状況を作るためにも、教師は材や活動、関係などをある程度想定したうえでどっしりと構えておくことが重要だとお話されました。

作品化の良さは、「好きを形にできる」こと

続いて、3年間一緒に議論をしてきた3人の先生方に、作品化の良さについて聞いてみました。神奈川県愛川町立中津第二小学校 教諭 菊池崇徳先生(2025年1月時点)は、作品化の良さは「好きを形にできる」ことだと言います。普段の授業では、教師の指示どおりのことをやって、できたら終わり、ということが多いですが、そこにメスを入れていくのが作品化のポイントです。

作品化の授業に取り組んだあるクラスには、なかなか学習に取り組むことが困難な子がいました。しかし、プログラミングで学んだことを作品にする授業はピタッとはまり、他の子が使っていないブロックを自分で調べて取り入れてみたり、先生に対して「時間が足りないからもう少しください」と自分から言いに行ったりした姿が見られました。担任の先生が一番おどろき、プログラミングや作品化への価値を感じてくださっていたようです。

また、東京学芸大学附属小金井小学校 教諭 小池翔太先生(2025年1月時点)は、子どもたちとともに「作品とは何か」「作品化するとはどういうことか」を考える授業を行った結果、小学校2年生の子どもたちは、身の回りにある多くのものを作品として捉えることができると述べています。それも作品化のおもしろさの1つと言えるでしょう。

「学力」と「表現」の間で

「学びの作品化」を志向する授業は、いわゆる表現の教育に近しいものがあります。表現の教育では、活動と学力の関係が問題になりますが、作品化概念では学力をどう捉えていけばいいのでしょうか。

小池先生は、「その子にとって学習成果を取りまとめる道具となりうることが重要で、プログラミングという手段が増えたのは大きい」と指摘します。「学習への向き合い方が向上すれば、学習効果は上がってくるのではないか」ということも、作品化の授業実践を見ていく上で考えていたことでした。また、中村先生は、「これってどういうことなんだろう?」と考えられる子には育っているような実感があるとお話をされていました。

また、神奈川県横須賀市教育委員会 新谷美紀先生(2025年1月時点)は、「主体的に取り組む態度と親和性が高いのでは」と指摘しています。自分自身の状況を知ることが作品化のスタートであり、作品を作っていく中で今の自分はどの段階にいるのか、何を知っていて何を知らないのかがわかるのです。

図工を専門とされている東京都板橋区立志村第一小学校 教諭 田村久仁子先生(2025年1月時点)は、作品化に「図工で学んだことが他の教科に溶けていくような感覚」を感じると述べています。図工という教科のもつワクワク感や歓びにあふれている様子が、他の教科でも見られるのではないかと期待していると言います。

「プログラミング」であることの価値

学びの作品化では、学びの表現手段としてのプログラミングにこだわっていますが、なぜプログラミングがいいのでしょうか。

田村先生は、「図工では教師が提示した題材を作るだけで終わってしまうことがあるが、Scratchで作ったものを動かそうとすると、教師が提示した題材を子どもたち自身が拡張し、ストーリーを作るなかで自分の題材に変化していく」といい、これがプログラミングによる表現のおもしろさであると言います。これはまさに中村先生が冒頭で指摘していた作品化の「ものがたる」活動によって、自分自身の経験になっていくということでしょう。

中村先生は、子どもが「プログラミングって意外とめんどくさいよね」と言っていた場面に遭遇したことがあると言います。教師目線からすると、この煩わしさを経ることで仕組みを考えることができますが、子ども目線からすればこれはリアルな声だと言えるでしょう。そして、「他の子の作品を真似しやすい」という声もあったと言います。例えば、粘土や絵の具を使った作品を完璧に真似することは難しいですが、プログラミングの場合まったく同じコードを書けばまったく同じものができあがります。「学び」の観点から見れば、これは大きなアドバンテージとなるでしょう。

学びの作品化への期待

最後に、古くから情報教育に関わってきた佐川町教育委員会 黒瀬忠行先生(2025年1月時点)、元 NPO法人みんなのコード・現 北区教育長 福田晴一先生(2025年1月時点)から、学びの作品化に寄せる期待についてお話いただきました。

黒瀬先生は、プログラミングを表現の1つとして自由に考えることが重要だと述べられました。2022年に当時校長を務めていた学校で学びの作品化実践をやったときのことを振り返り、実践後の学習発表会のときに多様な表現方法のなかの1つとしてScratchでゲームを作って発表していた子がいたそうです。子どもたちの中にプログラミングが手段として根付いていったことはとても喜ばしいことです。

福田先生は、心理士の目線から作品化の魅力を「自分で考えて自分でやる」ことであるとお話されました。

幼稚園までの子どもたちは活動の中で学んでいますが、小学校に入ると学年・クラス・教室といった枠組みが生まれてしまいます。そこでは、数値で表現できる学力が重視されます。一方で、作品化は、「つくる」ということによって学ぶことが自分ごとになります。認知を支えるための非認知、という構図が生まれていると言います。

”次”を作っていく覚悟

ここまで書いてきたように、小学校フェス後半は、これからのプログラミング教育のあり方を考えるべく、私が中心となって進めてきた学びの作品化概念を共有させていただく機会となりました。学びの作品化は、プログラミング教育の枠に留まらず、これからの学びのあり方そのものを問い直す大きな概念となってきました。生成AI以後の社会を生きる子どもたちには、これまでのような知識偏重、教示主義的な勉強よりも、自分にとって意味のある活動を通した創造的態度の涵養こそ重要になってくると言えます。学びの作品化概念は、これまでの教科の学びと創造的な学びの交差点を担うポテンシャルがあると考えています。

今回の小学校フェスでは3年間の研究会の成果を発表し、プログラミング教育に関心のある先生方と共有させていただきました。ここで上げた狼煙を絶やすことなく、引き続きこの分野の研究・開発に全力を注いでまいります。

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