こんにちは!みんなのコードで休眠預金事業を担当している前田喜久子です。私は、子どもたちがデジタル・テクノロジーを使って自由に創作活動できる場所づくりの開設サポートをしています。
みんなのコードでは、2023年度より休眠預金等活用事業(*1)においてREADYFOR株式会社とともに資金分配団体を務め、「自分たちのまちにもクリエイティブハブをつくりたい」と考える団体の挑戦を、資金面と伴走サポートの両面で支えています。
今回の全国研修は、こうして全国に広がり始めた仲間たちとも学び合いながら、各拠点が大切にする「つくる」価値を深める機会として開催しました。
本記事では、2025年9月24日から3日間にわたって開催された「みんなのクリエイティブハブ(*2)全国研修2025」の当日の様子と、企画に込めた想いをお伝えします。

2025年9月24日から26日までの3日間、東京・京橋のCityLab Tokyoにて開催し、全国13拠点から約30名のスタッフが集まりました。
第2回の開催となる今年の全国研修のテーマは「『つくる』の価値を言語化する」です。
3日間の研修では、それぞれ拠点を運営するメンバー自身の原体験を掘り起こしてきました。参加者は、普段は手を動かして「つくる側」にいる子どもたちの立場になり、言葉を紡ぎ、「なぜ私は『つくる場所』に携わっているのか」「なぜ『つくる場所』が求められるのか」という問いに向き合っていきました。

「つくる」の価値を表現する難しさ
「つくることは楽しい」
「だんだん子どもたちの表情が明るくなってきている」
「つくることを通じて新しい関係性ができている」
普段子どもたちに関わるスタッフたちは、毎日つくることの価値を肌で感じています。私たちは、子どもたちが何かをつくる経験を通じて、試行錯誤し、失敗し、悩み、また手を動かすそのプロセスに、はかりしれない価値があると感じています。
だからこそ、子どもに関わっているスタッフ自身がその価値を自信を持って語れるように、彼・彼女ら自身が自分たちの居場所の良さを言葉にできるようになることは、子どもたちにとってより良い環境を提供することにつながると思いました。そして、今回の全体テーマを「つくる価値を言語化する」に設定しました。
つくりながら、自分の言葉を見つける3日間
ここからは、研修についてお話しをしていきます。この3日間は、とにかく、つくって、考えて、共有して、深める・・・これを繰り返して自分の中で「つくる意味」を形づくりました。
まず、研修の最初に、参加者全員に「ラーニングジャーナル」を配りました。これはいつでも、何を書いてもいい、自分だけのこの3日間の研修記録ノートです。参加されたみなさんは、研修の中での気づきをこのジャーナルにびっしり書き込んでいました。

1日目・・・・つくることを“自分ごと化”してみよう!
まずはお互いを知るための「自己紹介CUBE」づくりです。上田信行氏のプレイフル・ラーニングの手法を参考にして企画しました。立方体の6面に自分に関することを表現し、互いに見せ合う中で、参加者同士の関係性が自然に生まれていきました。

次に、山内祐輔氏が提唱する「つくる」の2パターンである「折り鶴モデル(つくるものが決まっている)」と「砂場モデル(つくるものが決まっていない)」について理解を深めていきました。「つくる」とは自分にとってどのような行為なのかという深い問いに向き合い、自分なりにとっての「つくる」の答えを各々風船に書き、相手に見せながら話すスタイルをとりました。

さらに、「砂場モデル」体験として、絵の具とスポンジだけでつくるカラフルペーパーづくりをしました。それぞれ思い思いに、色とりどりの紙を自由に作っていきました。
実際に体験をしたあとには、シーモア・パパートの構築主義を引用し、「つくることで学ぶ」ことについて理解を深めていきました。シーモア・パパートは、プログラミング教育の父と呼ばれた教育学者です。彼は自伝の中で、幼少期に歯車(ギア)に出会ったことが、数学や機械への理解を深める原体験だったと語っています。
そこで、「子ども時代の出会い」をテーマにデジタルコラージュで表現し、子ども時代の原体験を思い出し、創作していきました。参加者にとって自己を見つめ直す時間となったようです。
2日目・・・・つくる過程を“言語化”していく
2日目は、決められたお題の中からグループごとに分かれて、1日目に作成したカラフルペーパーを題材に、コマ撮り撮影をするグループワークを行いました。実際に各拠点で子どもたちができそうなワークをもとに、「つくる」上でどういうことを工夫するかをグループ内で話し合ってもらいました。

その後は、拠点ごとに集まり、拠点で育みたい力について学術的なフレームワークを使用しながら日々の活動を振り返っていただきました。
3日間の集大成・・・多様なZINEから見える、大切な価値
そして、3日間の研修の中でもっとも時間を使ったのは、「ZINE」の制作でした。「ZINE」とは、自分の思いや表現を自由にまとめた小冊子です。
1日目、2日目で考えた「わたしにとってのつくることの価値」を、一人ずつどのような形式でもいいので、まとめるという活動を行いました。2日目の研修が終わったあとも残って制作している姿も多く見られましたし、宿泊先に戻って作り続けたという人もいました。2日間の研修を通じて、参加者が表現したいことが溢れ出ている時間だったように思います。
実際に3日目の朝集まった「ZINE」は、驚くほどそれぞれの人を体現するかのように多様なもので溢れていました。
・写真中心のもの
・文章をびっしり書き込んだもの
・イラストやコラージュで埋め尽くしたもの
どれ一つとして同じものはなく、クリエイティブハブが大切にしている価値観でもある、一人ひとりの表現が尊重される空間でした。



今回の研修の目的は「つくるの価値を言語化する」でしたが、、あえて「この研修のまとめ」のような言葉は作りませんでした。
参加者1人1人が「つくるの価値を言語化する」の意味を体感し、表現できるようになっていることが目標でした。
全国13拠点のみなさんが、運営スタッフとして、そして子どもたちや地域と向き合うときに、それぞれの現場に合った言葉が自然と紡がれていくこと、“自分の言葉で語れる状態”こそが、今回の研修のゴールだと考えたからです。
今回つくったZINEには、多様な表現や価値観が詰まっています。参加のみなさんがそれを改めて手にしたとき、「つくる」を自分の言葉で語れるようになっているのであれば、今回の研修は本当に実を結んだと言えるのだと思っています。
今回の研修から見えた「文化の醸成」という気づき
参加されたみなさんに、研修後アンケートでは、研修満足度4.85/5点と評価していただきました。
「つくるって楽しいなと感じることができた」
「手を動かし頭を動かし心を燃やした!」
「居場所づくりをする人のための居場所があるのもとても心強く安心しました」
など嬉しい感想をたくさんもらっています。
この研修が素晴らしいものになったのは、間違いなく参加者一人一人のおかげです。初めて会った人もいる中で、協力して何かをつくりあげたり、問いに真剣に向き合って語り合ったりというのは、簡単なことではありません。
2泊3日の長丁場の中、全員が真剣に参加をし、場を作り上げ、雰囲気を作り上げてくれたからこそ、素晴らしい研修ができました。今回の研修を終えて振り返ったときに、他拠点のみなさんと交流をしていくこの研修会の意義を見つけることができました。
それは、「文化の醸成」です。
子どもたちが自由な創作活動を行う「みんなのクリエイティブハブ」で大切にしていること、大切にしたいことがあります。
多様な人がいて、それぞれの感じ方があって、正解はありません。待つこと、強制されないこと、余白があること、否定しないこと、そして、一人ひとりの「つくりたい」という内側から湧き上がる気持ちを信じて、それを何よりも大切にしたいと考えています。
こうした各拠点で大切にしたいと思う文化は、マニュアルでは伝えることができないコアな部分です。理論で学ぶだけでもできません。実際にその文化をつくり、その中に身を置き、自分自身がその一部になることではじめて、居場所を育てていくことができるのだと思っています。
それぞれの拠点で大切にしている「クリエイティブハブの文化」を共有する場があるからこそ、自分たちのあり方や大切にしたいこと、そして他の団体を知ることで見えてくることなど、今回の研修を通して今後も必要であると強く感じました。
「つくる」場所を全国へ
「住む地域を問わずデジタル技術の活用を通じて自分の可能性を見つけられる」こと、それは、「みんなのクリエイティブハブ」が掲げる大きなビジョンです。
地方都市や町村には、最新のデジタルツールに触れられる場所が少ない現状があります。家庭の経済状況によって、創造的な活動の機会が制限される子どもたちもいます。しかし、すべての子どもたちが、自由に表現し、つくり、自分の可能性を広げる場を必要としています。

これからも、私たちはそれぞれの地域で、子どもたちが安心して試行錯誤しながら、失敗を恐れず挑戦できて、互いの違いを楽しめる。そんなクリエイティブハブの環境と文化を、全国13拠点で、そしてこれから増えていく新しい拠点で、今回の研修で繋がった仲間とともに育てていきたいと思います。
*1:休眠預金等活用事業とは、休眠預金等活用法に基づき、2009年1月1日以降の取引から10年以上、その後の取引のない預金等(休眠預金等)を社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する制度です。
*2:みんなのクリエイティブハブとは・・・子どもがテクノロジーに触れる場として機能するだけでなく、創造的な活動や試行錯誤を通じて、子ども自身の挑戦心や自己肯定感を育むことを目的とした取り組みです。地域の多様なステークホルダーと連携し、地域社会における新たな「つながり」を生み出すことで、子どもたちに多様で実践的な学びの機会を提供しています。各拠点は、運営団体や地域の特性を活かしながら自主的に運営されており、全国の子どもたちに対して、持続可能で価値ある学びの機会を届けることを目指しています。
