みんなのコード 理事会長の利根川です。
学校教育の動向に関心がある皆さまにとって、今年は、次期学習指導要領での情報教育の扱いなど、国の議論を追いかけるのが忙しい1年だったのではないでしょうか。
今回は、ここまでの情報教育をめぐる議論を中心に、この1年を振り返ってみたいと思います。
情報活用能力の抜本的向上に向けて
2024年12月25日、文部科学大臣が中央教育審議会に、初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について諮問しました。検討事項の一つには、情報教育も含まれていました。
生成 AI をはじめデジタル技術が飛躍的に発展する中、小中高等学校を通じた情報活用能力の抜本的向上を図る方策についてどのように考えるか。小学校では各教科等において、中学校では技術・家庭科、高等学校では情報科を中心として情報活用能力の育成が行われているが、その現状と課題、海外との比較を踏まえた今後の具体的な充実の在り方をどのように考えるか。その際、生成 AI 等の先端技術等に関わる教育内容の充実のほか、情報モラルやメディアリテラシーの育成強化について教科等間の役割分担を含めどのように考えるか。
中央教育審議会「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」
諮問を受けて2025年1月、中央教育審議会 教育課程企画特別部会で学習指導要領改訂に向けた議論が開始されました。情報活用能力の抜本的向上が論点となったのは、主に第7回(2025年5月12日)、第8回(2025年5月22日)の特別部会です。
第7回では、顕在化している課題として、①指導内容が不十分、②小中高を通じた育成体系が不明確、③必要となる条件整備の3点が示されました。
また、第8回では、質の高い探究的な学びを実現するための具体的論点として
- 小学校:総合的な学習の時間に、情報活用能力を育む領域を付加
- 中学校:技術・家庭科を二つの教科に分離し、情報(D)領域のみならず、A〜C領域でも情報技術との関連を強化
- 高校:小中の系統性を踏まえて、情報科の内容を充実
などが検討されました。
教育課程企画特別部会は、これまでに13回の議論を重ね、2025年9月に論点整理をまとめています。その中で、情報活用能力の抜本的向上の方向性イメージは、以下のように示されました。

この方向性は、私たちにとってとても喜ばしいものでした。
なぜなら、みんなのコードは、2022年4月に「2030年代の情報教育のあり方についての提言」を公表し、そこから一貫して、情報活用能力を育成する体系的な枠組みの必要性を唱えてきたからです。

2022年は、高校での「情報I」の開始に伴い、現行の学習指導要領が全校種で実施となったばかりの年です。その時点で、さらにその先の情報教育の在り方を示し、探究の必要性を公表した際には、「気が早すぎる!」と言われましたし、2022年時点でこの提言内容を公開することは、覚悟も必要でした。
その後、私たちは各地域・学校との共同研究・実証授業などを重ね、2024年7月には、「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案」を発表するなど、2030年代の情報教育のありたい姿を着実に具体化させていきました。同時に、様々な関係者と議論を深めてきました。2022年の時点で、目指す枠組みを想定していたからこそ、このような活動ができたのだと実感しています。
手前味噌ながら、2022年にみんなのコードが示した体系的な情報活用能力を育成する枠組みと、今年、国が示した方向性のイメージは、同じような世界を描いているように感じています。今回の国の方向性に、私たちの活動がどこまで貢献できたかは分かりませんが、少しでも役に立ったのであれば嬉しく思います。
現在も、詳細な議論が進行中
これまでの主な検討ポイント
2025年9月には、さらに詳細に情報教育の在り方の議論を行う「情報・技術ワーキンググループ」が設置され、現在も検討が進んでいます。
小学校は、総合的な学習の時間を「探究の領域」「情報の領域」で構成し、「情報の領域」に、ミニ探究ユニットと情報ブロックを設けることが示されました。

ミニ探究ユニットには、「プログラムでオリジナルロボットを作ろう」、「生成AIのリスクや限界を理解し、 今後の創作活動のあり方について考えよう」などの単元が例示されています。
情報ブロックは、「プログラミングを体験しよう」、「情報見分けの名人になろう」など、探究のプロセスに位置づけることが難しいものについて、中学校以降との接続や情報活用能力の着実な育成に留意しながら設計することとしています(探究的な学習の過程のどこで機能するかを明示するなど、文脈を意識して学べるようにするとのこと)。
中学校の技術・情報科(仮称)は、現行技術分野のA〜D領域を、「情報技術(仮称)」の領域と「情報を基盤とした生産技術(仮称)」の領域とすること、高校の情報科は、情報ⅠでAIやデータの扱いを充実させ、情報Ⅱは一定の幅の範囲内で単位数を配当できるようにすることなどが検討されています。


なお、小学校 情報の領域(仮称)、中学校 情報・技術科(仮称)、高校 情報科は、情報活用能力の育成を担う核となる教科等であり、ここで育成した情報活用能力を、各教科等の文脈で効果的に機能させることで一層の向上させることを想定しています。
また、こうした大きな変化に対応できるよう、教材や環境の整備なども国が合わせて行うことが検討されています。
今後の議論にも注目
今後、詳細な目標案や、指導と評価の改善・充実、柔軟な教育課程のあり方、具体的な時数なども議論される予定です。
また、専門高校の教育課程については、産業教育ワーキンググループで議論されており、「情報Ⅰ」の代替科目(農業科の「農業と情報」、福祉科の「福祉情報」など)を受け皿としたデータサイエンス・AIに関連する教育内容の充実が別途検討されています。
※ 専門学科と「情報」の関係については、こちらの記事も合わせてご覧ください。
中学校の技術・家庭科が、二つの教科に分離することに伴って、「知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校の中学部」での職業・家庭科の扱いがどうなるのかは、特別支援教育ワーキンググループで検討されるのでしょうか。
私たちは、2025年9月に「次期学習指導要領での情報活用能力の抜本的向上に向けた提言」を公表し、子どもたちが“本当につくりたいものづくり”を実現する情報教育への期待を投げかけました。今後も、全ての子どもが、つくりたいものをつくれるような情報教育が実現するか、議論を注視したいと思います。
2026年度も、皆さまとの対話を大切に
最後に、国の情報教育の議論に関連して、私の2025年も少し振り返りたいと思います。
4月には、中央教育審議会 デジタル学習基盤特別委員会の委員を拝命し、特に生成AIの利活用について、意見を述べさせていただきました。
みんなのコードが10周年を迎えた7月には、代表理事のバトンをCOOであった杉之原さんに託しました。一部の方からは「みんなのコードの活動は、引退したのですか?」と聞かれることもありますが、関わり方が変化しただけです。引き続き、様々な現場にも足を運んでいますし、「理事 会長」として、みんなのコードにコミットし続けています。
一方、みんなのコード以外の活動としては、10月にはNPO法人ICSECを設立して、代表理事に就任しました。翌月には、バンコクでカンファレンス ”Asia Pacific Computer Science Education Conference 2025” を開催するなど、アジアにおけるコンピュータサイエンス教育の推進を着実に進めています。諸外国では生成AIをどう教育課程に落とし込むかの議論が盛り上がっていてそういった知見からも学習指導要領改訂に何らか貢献出来ないかと思っております。
みんなのコードはこれまで、学校現場をはじめとする関係者の皆さまと対話を重ねながら、また、多くの支援者の皆さまに支えられながら、教材の無償提供や教員研修、新たな授業実践の創出や政策提言など、今と未来に必要な取り組みを行ってきました。2026年以降は、学習指導要領の普及のための活動が始まってきます。私個人として、また、みんなのコードとして、情報教育のためにできることを、今後も実践していきたいと思います。
それでは皆さま、良いお年をお迎えください。2026年も、どうぞよろしくお願いいたします!
