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デジタル教材を「使う側」から「つくる側」へ。先生とVibeコーディングハッカソン開催レポート

みんなのコード理事会長の利根川です。
みなさん、Vibeコーディングは使っていますか?最近では少しずつ、Vibeコーディングで作成した先生のオリジナルの教材を授業で使う例を見るようになりましたが、まだまだ少数だと思います。

みんなのコードでは、2月7日に「理想のデジタル教材を自分でつくる!Vibeコーディングハッカソン」を開催しました。今回は、その様子をレポートします!

コンピュータが、本当の意味で紙やペンと同じ文房具になる〜Vibeコーディングの意義〜

当日は、広島大学特命助教の宮島衣瑛さんを講師にお迎えしました。まず、宮島さんからVibeコーディングの意義と簡単なデモンストレーションを行っていただきました。

── 改めて、Vibeコーディングとは何か、簡単に教えていただけますか?

宮島

Vibeコーディングとは、私たちが普段使っている自然言語の形でコンピュータに自分がつくりたいアプリのイメージを伝えて、AIがコーディングをする、これからのアプリ開発の1つのやり方です。これまでのアプリ開発はプログラミング言語を習得し、ある程度のトレーニングを積まなければできませんでしたが、生成AIの発展によって、プログラムを書くことなくアプリができるようになりました。

▲ Vibeコーディングを説明する宮島氏

── Vibeコーディングの登場は、教育現場にどんな変化を与えるでしょうか?

宮島

第一に、教師によるデジタル教材づくりが活発になることです。

日本の教師たちはこれまで、模造紙や画用紙などを用いたアナログ教材づくりを盛んに行ってきました。こうした実践は、単なる準備作業ではなく、教師自身の専門的力量を高める営みでもありました。子どもたちの実態を踏まえ、どのような教材が必要かを考え、それを具体的な形にすることは、教師の重要な専門性の一つだったと言えます。

GIGAスクール構想以降、学校における教材のデジタル化は進んだ一方で、その多くは教師自身ではなく、外部の事業者や第三者によって作られるようになりました。これは便利である反面、教師が目の前の子どもたちに合わせて学習材をデザインする力を、相対的に弱めてきた側面もあります。デジタル教材づくりが広がらなかった背景には、従来、一定のプログラミング能力や学習コストが必要だったことがあります。多忙な教師にとって、そのための時間を確保することは容易ではありませんでした。

しかし、生成AIの登場によって状況は変わりつつあります。専門的なプログラミング知識がなくても、短時間で一定程度のアプリケーションやデジタル教材を開発できる可能性が開かれてきました。これは、GIGAスクール構想以降に整備されてきたデジタル学習基盤を、真の意味で教育実践に活かしていくうえで、きわめて重要な変化だと考えます。

第二に、教師が「誰かが作った教材を使う」のではなく、「自分で作った教材を使う」ことが可能になることです。

これは単に教材作成のコストが下がるというだけではありません。必要な場面に応じて、その場限りで使う小さなアプリケーションや教材を、教師が自由に作れるようになるということです。言い換えれば、デジタル教材が「使い捨て可能」になる、ということでもあります。ある単元の、ある授業の、ある時間にだけ必要な教材を、その都度つくることができるようになるのです。

これまで「コンピュータは紙やペンと同じ文房具である」と語られることもありましたが、実際にはデジタル技術の可塑性は教師にとってそれほど高くありませんでした。紙やペン、粘土のように、思いついたときにすぐ形にすることは難しかったからです。しかし、Vibeコーディングの登場によって、その状況は大きく変わる可能性があります。教師にとってコンピュータが、ようやく紙やペン、あるいは粘土のように、思考をそのまま形にできる道具へと近づいていくのです。

第三に、教師が作った教材を、今度は子ども自身がVibeコーディングによって書き換えられるようになることです。

私は、ここに最も大きな可能性があると考えています。子どもたちには、それぞれに合った学び方や理解の仕方があります。しかし、従来のアナログ教材では、それらに応じて教材そのものを柔軟に変えることは容易ではありませんでした。教材は基本的に固定されたものであり、子どもはそれに合わせる側に立たされがちでした。

これに対して、デジタル教材が可変可能な形で配布されれば、子ども自身が自分にとって分かりやすい形へと教材を変えていくことができます。表示の仕方を変える、問題の出し方を変える、操作の仕組みを変える、といったことが可能になるでしょう。これは、従来の教材にはなかった新しい可能性です。教材を与えられるものではなく、自ら調整し、つくり変えるものとして捉え直すことができるからです。

このように、Vibeコーディングは、教師の教材開発を促進するだけでなく、教材をより即興的で柔軟なものに変え、さらに子ども自身を教材の受け手から書き換え手へと位置づけ直す可能性を持っています。教育現場における教材観そのものを変えていく契機になるのではないかと思います。

先生の思いを動く教材に、ハッカソンの様子

ハッカソンには、5名の小学校・中学校の先生に参加いただき、2時間程度で教材を作成しました。「これってできるのかな?」「〇〇もしたいな!」など、つくりながら浮かんだ疑問やアイデアを口にしながら、2時間をかけて一つの教材を作り込む方もいれば、複数の教材づくりにチャレンジされる方もいました。

最終的に、

  • メダカの飼育シミュレーター
  • 生物育成を体験するアプリ
  • ローマ字が分からなくても楽しめるタイピングゲーム

など、様々な教材のアイデアが形になりました。

▲ 参加者が作成した「メダカ飼育シミュレーター」

「子どもたちが、もっと〇〇をわかりやすくイメージすることはできないか」「〇〇という制約がある中でも、体験的に学ぶ場面をつくりたい」「今の学級を考えると、〇〇の活動をスムーズにするためのものがあると良いのでは」など、先生方が普段感じている課題感を解消したり、もっと良くしたいという願いを実現するためのヒントとなるような教材が生まれたのではないかと思います。

プログラミング教育から、デジタル・メイキング教育へ

── 今回のハッカソンを振り返って、感想を教えてもらえますか?

宮島

今回のハッカソンを通して、教える勘所をよく理解している先生方だからこそ生み出せるデジタル教材が数多く見られたことが、非常に印象的でした。私はこれまで大学で学生とデジタル教材づくりに取り組んだことがありますが、やはり「授業のどの場面で、どのように使うのか」という具体的なイメージを持っている教師のほうが、よりおもしろく、実践に根ざした教材をつくることができると改めて感じました。

他方で、難しさもありました。とりわけシミュレーション型の教材については、その動きや振る舞いが本当に適切なのかを吟味することが非常に重要です。見かけ上それらしく動いていたとしても、それが実際の現象や概念を適切に表していなければ、単なる「シミュレーションのシミュレーション」、いわばシミュラークルになってしまう危険があります。この点は、今後デジタル教材を活用していくうえで慎重に考えなければならない課題だと思います。

その意味では、デジタル教材は何かを完全に再現したり、正解をそのまま示したりするものとして用いるよりも、子どもたち自身がイメージを形づくっていくための補助として位置づけるのがよいのではないかと感じました。教師が子どもの思考や理解を支えるために用いる補助線のようなものとしてデジタル教材を捉えることが、現時点では最も適切なのではないかと考えています。

▲ 作成したデジタル教材を発表する様子

── Vibeコーディングで教材を作ることに対して、改めて感じた可能性はありますか?

宮島

改めて、大きな可能性を感じました。とりわけ重要なのは、教師が自分の手でデジタル教材を実際に作れるようになったことです。これまでデジタル教材の開発には、一定の専門知識や技術が必要であり、多くの教師にとっては「使うもの」ではあっても、「自分で作るもの」ではありませんでした。しかし、Vibeコーディングの登場によって、この状況は大きく変わりつつあります。教師自身が、目の前の子どもたちや授業の文脈に即して、必要な教材をその場で構想し、形にすることが可能になってきたのです。

その際、必ずしも大がかりな教材を作る必要はありません。むしろ、一つの授業や一つの場面で使えるような、小さく具体的な教材を数多く作れることにこそ意義があると感じます。授業実践において本当に求められるのは、汎用的で壮大なシステムよりも、「この単元のこの場面で使える」教材であることが少なくありません。Vibeコーディングは、そうした小回りの利く教材づくりを現実的なものにしていると言えます。

さらに、生成AIの登場によって、コンピュータを用いたものづくり活動そのものの意味も、大きく変わろうとしていると感じています。自分の意図した通りにコンピュータで動くものをつくるためには、プログラミングを覚える必要がありました。しかし現在では、自然言語でAIに指示を出しながら、画像、映像、音楽、アプリケーションなど、多様な成果物を生成・編集することが可能になっています。

こうした状況を踏まえると、もはや「プログラミング教育」という枠組みだけでは不十分です。私は、コンピュータを使った創作活動全般を指す概念として、「デジタル・メイキング」を捉える必要があると考えています。そして今後の教育は、従来のプログラミング教育から、より広い意味でのデジタル・メイキング教育へと移行していく必要があるでしょう。

その意味でも、教師自身がデジタル・メイキングの担い手になれるようになったことは、非常に大きな変化です。教師が単に既製の教材を消費する存在ではなく、自ら教材を構想し、試作し、改善していく存在になることは、教育実践そのものをより創造的なものへと変えていく可能性を持っています。Vibeコーディングは、教師の教材開発のあり方を変えるだけでなく、教師自身を「デジタルにおけるつくり手」として再定位する契機になっているのではないかと思います。

▲ みんなのコードメンバーも、教材づくりに挑戦!

── 逆に、今後の課題だと感じたことはありますか?

宮島

いくつか重要な課題があると考えています。

第一に、教師自身がどのような子どもの学びを構想しているのかが、教材の質を大きく左右するという点です。教師の中にある「子どもの学びのイメージ」が貧弱である場合、結果として教示主義的なデジタル教材が生まれやすくなります。つまり、子どもが自ら考えたり試行錯誤したりする余地が乏しく、教師があらかじめ設計した手順に沿って進むだけの教材になってしまう危険があるのです。そのような教材では、子どもは教師が作ったシステムに乗るだけになり、学びが作業化してしまいます。したがって今後は、子どもの思考の余白を十分に担保した教材を、いかに構想し設計するかが重要な課題になるでしょう。

第二に、コンピュータというインタラクティブなメディアだからこそ可能になる教材とは何かを、改めて研究していく必要があります。デジタル教材を単に紙教材の置き換えとして考えるだけでは不十分です。操作に応じて変化すること、試行錯誤を即時に反映できること、複数の表現を往還できることなど、コンピュータならではの特性を生かした教材のあり方を、理論的にも実践的にも深めていく必要があります。Vibeコーディングによって教材を作りやすくなったからこそ、今度は「何を作るべきか」という問いがいっそう重要になってくるのです。

第三に、Vibeコーディングそれ自体に関わる課題もあります。たとえば、セキュリティに対する懸念は依然として残っています。生成AIや外部サービスを用いる以上、情報の扱いや安全性について慎重である必要があります。こうした状況を踏まえると、現時点では、誰かが作ったアプリケーションをそのまま使うよりも、必要に応じて自分自身で作ることの意義はむしろ大きいと言えます。自ら構造を理解し、用途を限定しながら作成することで、教材の目的や安全性をより主体的にコントロールできるからです。

今後の課題は、単に技術的な課題にとどまらず、どのような学びを支える教材を構想するのか、コンピュータというメディアの特性をどう教育的に生かすのか、そして安全性をどう担保するのかという、教育観・教材観・技術観を横断する問いとして捉える必要があると考えています。

「好き」を育み、「得意」を伸ばすための味方に

みんなのコードとしても初めての試みとなったVibeコーディングハッカソンですが、私自身も気づきの多いイベントとなりました。

私も、宮城教育大学附属小学校の公開研究会の図工の時間で、先生がVibeコーディングで作ったアプリを使った授業を参観する機会があり、子ども達はとても熱心に授業に参加していました。やはり先生が自分のクラスの子どものために作るアプリはクラスの実態にあっていると感じました。

また、その中でとある児童に「このアプリ何?」と聞いたところ、児童が「うん、先生が作ったの」とあたかも当然だという風に答えていたのが印象的でした。先生がVibeコーディングでアプリを作る世界になると、彼/彼女らにとっては「アプリは作れるもの」と環境から学ぶことが出来るようになることにも大きな可能性を感じています

今回、参加したみんなのコードメンバーからも、

  • まずは「やってみる」ことが必要。今回参加いただいた先生方は、「やりたいこと・思いはあれど、形にするにはハードルがある」という状態だったが、それを乗り越える経験を提供できたのではないか。
  • 教材を作るということは、「どんな授業をするか」「子どもたちのどんな学習活動を設計するか」ということ。「教材アプリ」と聞くと、「ドリル・確認問題・クイズ」になりがちだが、Vibeコーディング以前に教育観の問題を考えることが大切。
  • 何度も作って共有し合う経験を積み重ねながら、既成概念から自由になる(既存教材の焼き直しにならない)方向に進んでいくには何が必要か考えさせられた。デプロイの壁や AI を使った教材の壁をうまく乗り越える環境のことも、これから検討が求められる

などの感想が寄せられました。

こういった新しいトライアルを一人ひとりの先生がするだけでなく、ハッカソン形式で一緒にやることにより、Vibeコーディングのベストプラクティスや逆にアンチパターンも今回少し見えてきたと感じています。

また、現在、学習指導要領の改訂に向けた議論が進んでいます。議論の中では、「『好き』を育み、『得意』を伸ばす」が一つのキーワードとして挙げられており、そのために各教科等で「興味・関心を広げ、教材・学習方法の選択を促進」するための検討が進められています。

Vibeコーディングによる教材づくりは、こうした世界観の実現に大きく寄与することができるのではないでしょうか。

私たちはこれからも全国の学校現場に、プログラミングや生成AIをはじめとした情報教育に関わるご支援をしてまいります。「生成AI」や「Vibeコーディング」の教員研修などにご興味がありましたら、ぜひみんなのコードまでご連絡ください。

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