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研修レポート:資源エネルギー庁主催「生成AIで切り開くエネルギー教育の新たな可能性」

みなさん、こんにちは!みんなのコードで中学校の担当をしている千石です。私はみんなのコードで主に中学・技術科の教材やカリキュラム開発、そして先生方に向けての研修などを担当しています。元々は、東京都の中学校で技術・家庭科技術分野の教員として11年間勤務していました。
今回は、8月31日に実施された経済産業省資源エネルギー庁主催の研修「教育現場における生成AIのこれからと生成AIがもたらすエネルギー課題の探究!」に登壇した際のお話をします。

なぜ、みんなのコードがエネルギーの研修をするのか?

みんなのコードでは、技術科や情報教育の研修やカリキュラム開発を担当しています。今回、資源エネルギー庁からの依頼で本研修の講師を引き受けた背景には、エネルギー教育に対する、教員時代からの強い思いがありました。

2011年3月11日の東日本大震災で福島第一原子力発電所が甚大な被害を受け、日本のエネルギー政策は大きな影響を受けました。当時は1997年の京都議定書を受けて、CO2削減が至上命題として掲げられていました。技術科の中には「エネルギー変換の技術」という内容があり、とても重要な内容の1つです。そこでは電気製品の安全な利用方法や、発電所や送電のしくみについても学習します。また、電気については理科、発電所については社会科でも学習します。

その一方で、それら電気を中心とするエネルギーと、どのように向き合って生きていくのか?ということを生徒にじっくり考えさせる授業を広めたい、という思いをずっと温めていたのです。
電気というものはスイッチを付ければすぐに利用できる便利なものです。しかし、「どこでどのように作られたのか?」「何を原材料に発電されたか」は目に見えないものなので、生徒たちは無自覚に利用してしまいがちです。そこにスポットライトを当て、生徒たちに主体的に考えさせることができる授業を思い描いていました。

そして、先日ニュース番組で、日本の電力消費量の長期予測が上方修正されたと耳にしました。最初は電気自動車や夏のエアコン需要の影響かと思いましたが、その原因は、データセンター建設による需要増という意外なものでした。これは国のエネルギー基本計画に基づく内容でしたが、教科書にはこういった大きな方針転換について触れる機会はほとんどありません。そういう意味でより多くの先生方に知ってもらいたい内容だと思いました。

また、みんなのコードが積極的に取り組んでいる生成AIと技術科のエネルギー変換を結びつける授業を行えば、AIとエネルギーの両方に興味や関心を持って学習してもらえるのではと、考えました。
みんなのコードでは、以前から、文部科学省の生成AIガイドラインに示されている、「生成AIのしくみ」や「使い方」についての授業は、すでに中学校でも実践してきていました。しかし、技術科での学習に生成AIを利用する…「教科の学びを生成AIで深める」という点については、生成AIの活用を取り込めていませんでした。これらの課題感を研修の内容に結びつけようと考えました。

技術科と生成AIの融合

研修会では、資源エネルギー庁のWebサイトや副教材の活用について触れつつ、目玉として「2040年代の日本における発電所のエネルギーミックスについて考える」というテーマを設定しました。このテーマは以前から技術科でよく取り組まれている内容で、近年は再生可能エネルギーの利用や、カーボンニュートラルの広がりによって、より重要性が増したと思います。

しかし、生徒たちに、未来の発電所のバランスを考える…という課題をいきなり与えると、「再生可能エネルギーの割合を増やして、完成!」としてしまう生徒が多くて、考えを深めることが難しい内容でもあります。

残念ながら現実は甘くはなく、エネルギーの安定供給や価格など、考慮に入れるべき点が多く、再生可能エネルギーだけでは、社会全体の電力使用量を賄うことは現時点では困難です。そういった点を生徒それぞれに対してアドバイスをしたり、考えを促したりするのに生成AIは非常に有効です。

 

 

引用:AIで電力需要「爆発」予想 ChatGPTに質問、検索の10倍も(2024年6月9日 朝日新聞デジタル

今回は、みんなのコードが提供する「みんなで生成AIコース」(以下、生成AIコース)を使って、発電所の長所/短所を確認したり、エネルギーミックスの割合についてアドバイスを求める活動を行いました。こういった正解のない課題に対して、生成AIは相性がとても良いと思います。正解が1つではないからこそ、それぞれの生徒が考え、意見を交わし、みんなの意見をまとめる体験はますます重要になります。

研修の感想と今後の展望

この研修に登壇させていただいたことによって、以前から温めていた授業のアイデアが日の目を見ることができました。また、情報分野の発展はとても早いですが、エネルギー分野の環境変化も大変激しく、先生方に最新の情報に触れる機会を提供することができたのも良かったです。

研修に参加された先生方の感想を一部ご紹介させていただきます。

  • 生成AIを活用した児童の探求の仕方が参考になった。また、電力需要見通しで、データセンターやAI等が増加の原因になっていること、AIが検索の10倍電気を使うことなど本当に驚かされました。
  • 実際に各産業などにおいて必要な電力量と今後の社会状況を考えた際、単なるエコや一般的に行われるようなエネルギー教育だけでなく、生徒に考えさせたり、我々、教員のサイドでも電力バランスなどについて考える必要があると感じた
  • 生成AIの授業での取り入れ方が具体的で、興味深かったです。生成AIの内容が答えなのでもなく、先生が答えを伝えるのでもなく、生徒に考え方を示し実践させる、その先の将来に行動変容が期待される。時間のかかることだけど種を植えるという教育の場に、マッチした教材だと思いました。

登壇させていただいた研究会のアーカイブ動画はこちらにあるので、ぜひご覧ください。
今回の記事は、技術科における「生成AIで学ぶ」学習をご紹介しましたが、今後も幅広い教科で「生成AIで学ぶ」事例を紹介していきたいと思います。

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