こんにちは!テクノロジーを活用して自由な創作活動が行える子どもたちの居場所「みんなのクリエイティブハブ」事業部長の末廣です。
この事業は5年前に、たった2台のPCとデスクで石川県加賀市に誕生しました。5年目を迎える現在は、みんなのコードが直接運営する拠点と、運営支援をしている他団体拠点を合わせて全国9箇所に拡大。それに伴い、各エリアに点在する拠点同士をつなぐことの重要性が高まりつつあります。今回は、複数の拠点をつなぎ、ネットワーク化する意義をご紹介します。
みんなのクリエイティブハブとは
みんなのクリエイティブハブは、PC、タブレット、3Dプリンターなど様々なデジタル機器を取り揃え、自由な創作活動を行うことができる10代の子どものための施設です。みんなのコードは、試行錯誤・創意工夫がしやすい“テクノロジー”を使って 、「やりたい」を見つけ「好き」を深めることができるこの施設を全国で運営しています。
たくさんの視察があったが開設には結びつかなかった
クリエイティブハブ事業は、2019年に石川県加賀市教育委員会から運営委託を受けたことに始まります。その記念すべき1号拠点「コンピュータクラブハウス加賀」は、1993年に米国・ボストンで初めて設立された、 子どもたちに「いつでも」「安全に」「テクノロジーに触れられる」コミュニティに所属する日本初の拠点です。
テクノロジー先進国アメリカの活動が日本に初上陸!ということで、開設当初からメディアに取り上げていただくことも多く、全国の自治体や様々な団体・企業からの視察が後を絶ちません。これまでの視察総数は百を超えます。
一方で、この5年間を振り返ると、私たちが直営拠点として運営する石川県金沢市、高知県須崎市の2つの拠点を除けば、視察から実際の開設まで結びついたケースはゼロ。「自分の地域にも開設したい!」と熱い想いを持って視察に来られた方々であっても、実現できなかったのです。
理由として感じているのは、「まだ誰も見たことがない新しいサービスの事業価値」をうまく言語化できなかったことではないかということです。前例のない新しい取り組みであるがゆえ、行政や地域企業等が出資判断をすることの難易度が高かったと推察しています。
「まずはさまざまな地域で拠点を立ち上げて、実際に地域の方々に見てもらう必要がある」と考え、休眠預金活用事業(*注1)に挑戦することを決め、2022年に無事に採択されました。
現在私たちは、資金分配団体として、自分たちのまちにもクリエイティブハブを開設したいという想いを持つ全国6つの団体の拠点開設と運営を、資金面・非資金面でサポートしています。
*注1:休眠預金等活用事業とは、休眠預金等活用法に基づき、2009年1月1日以降の取引から10年以上、その後の取引のない預金等(休眠預金等)を社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する制度です。
拠点と拠点をつなぐ、ネットワーク化がもたらす3つの価値
みんなのクリエイティブハブは、2024年現在、休眠預金活用事業の支援先を含め、全国に9拠点に広がりました。北は北海道から、南は奄美大島まで。人口規模が数千人という小さな地域に開設された拠点もあります。
事業を運営する中で、それぞれの団体を個別に支援する中で拠点同士を繋げることの価値に気づき、2024年は「ネットワークを作る」ことに注力しようと決めました。これには、大きく3つの価値があると考えています。
価値その1:さまざまな拠点を身近な「モデルハウス」として見せられる
まず最初の価値は、「このようなものです」と多拠点の事例を見せることができること。
それぞれの地域がクリエイティブハブのような新しい事業を始めようとした時に、事業価値への理解を得るためには、「一体どのような施設なのか」をリアルにイメージできることが重要です。新しいことであればあるほど言葉だけで伝えることは難しく、たくさんの視察を受ける中で、百聞は一見にしかずを実感しました。
地域が取り組みたい課題もそれぞれですので、自治体の規模や事業のステークホルダー、開設する施設や地理的な条件等さまざまな拠点事例が揃えば、これから拠点を開設したい自治体や団体にとっての身近なモデルハウスが見つかるのではないかと考えます。
価値その2:事業価値可視化のために多くの事例が得られる
すでに開設されている拠点の事業継続と新規拠点開設を目指すにあたっては、この事業の価値を言語化および数値化していく必要があります。資金提供者にとっては、決して安くはない予算を投じていただくにあたり、「どんな経済効果、教育効果につながるのか」を語れる必要があることを痛感しています。
今、まさにそこを作ろうと奮闘していますが、これがなかなか難しい。私としては、今まだ世の中にない新しい価値を作っていると認識しているため、「こんな価値につながります」という数値がどこにもない。また、子どもの変容を数値で語ることの難しさも感じています。
単純に数値化できないことだからこそ、事例数が重要。それぞれの拠点をつなぎ、たくさんの子どもの変容事例を共有しあっていくことで、私たちが提供している事業からどのような価値が生まれているのかを、言語化しやすくなるのではと考えています。
価値その3:子どもたちが「興味が近い友だち/先輩と出会える率」が高まる
先ほど、人口規模が数千人という規模の地域にも開設されているとお伝えしました。そのような地域で、自分の興味と近い人に出会える確率を考えてみてください。
「音楽制作をやりたい」
「デジタルイラストでアニメーションを作ってみたい」
心の中にやりたいことが芽生えていても、自力でその先へ進んでいくことは決して容易ではありません。
同じ興味を持つ友達や、やり方を教えてくれる先輩と出会えることは、子どもがやりたいことを実現できるかどうかにも大きな影響を与えるのではないでしょうか。
「同じような興味を持っている子が、奄美大島にはいないけど秋田にはいた。」
拠点間がつながることでそんな出会いが生まれる可能性が高まるので、それを想像すると大変わくわくします。
子どもの居場所の必要性はなくならない
私は石川県からリモートで全国の拠点を支援しています。テクノロジーの進化によって生活様式は大きく変わりましたし、これからも進化と変化が続いていくことでしょう。
学校教育の現場でも、デジタル端末の利活用が進んでいます。テクノロジーは個別最適な学びを強力に後押しするものであり、創造活動においても「基本的技術スキルの習得」というハードルを難なく超えさせてくれるので、子どもにとって、やりたいと思ったことをすぐできるような環境になりつつあります。
一方で、テクノロジーによって活動環境がアップデートされても、子どもにとって「同じ興味を持つ友達に出会え、安心して活動できる居場所」の必要性が減ることはないという実感があります。
むしろ、テクノロジーの進化によって「やろうと思えば一歩踏み出せる」という環境ができていくからこそ、心の熱量を共有できるような仲間との出会いは重要になると確信しています。
そのような今後のつながりを生んでいくためにも、今後も、様々な団体と協力しながらより良いネットワークを築いていきたいと思います。
最後までお読みくださりありがとうございました!