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一人で悩む授業づくりに、”横のつながり”と”新しい相棒”を

中学校技術 女性教員のためのトーク&ワークショップレポート

こんにちは、みんなのコードの千石です。みんなのコードでは、全国の中学校「技術」担当の先生方への研修講師や教材・カリキュラム開発を担当しています。

みなさん「中学校の技術科」と聞いて、パッと思い浮かぶ先生の顔は、まだまだ“男性”が多いのではないでしょうか?

実際、みんなのコードが行った「2022年度プログラミング教育・高校『情報Ⅰ』実態調査報告書」では、一番割合の高い20代で技術科の女性教員の割合が10.2%、60代だとわずか3%です。さらに、学校現場では、性別に関わらず、1校につき技術科教員が1名という学校がほとんどで、同じ職場で話ができる相手が身近にいないという声も多く聞かれます。

そんな中、「同性同士だからこそ話しやすいこともあるのではないか」「同じ技術科の仲間と悩みやアイデアを共有して欲しい」という思いから、3月15日(土)に『インクルーシブな授業づくり 〜中学校技術 女性教員のためのトーク&ワークショップ〜』を企画しました。

日本各地から集まった現役の先生方、教科書会社の方や教員免許を持つ学生の方に参加いただき、とても濃い、あたたかな時間になりました。

今回の記事では、当日の様子や、私がワークショップを通して感じたこと、そしてこの場づくりに込めた想いをお届けしたいと思います。

技術の女性教員が集まったらどんな話が生まれるのか?

まずは、イベント当日の様子をお届けします!

LINEヤフー株式会社の佐藤 優里さんによるトークセッション

イベントは、ご参加の皆さまそれぞれを知るところから始めました。「教員歴は?」「技術科の先生になったきっかけは?」「今日ここに来た理由は?」 そんな問いかけに、先生方は少し緊張しながらも、言葉を重ねていくうちに、会場の空気が徐々にやわらかくなっていくのが感じられました。

アイスブレイクを終え、トークセッションがスタート!
LINEヤフー株式会社の佐藤さんから、エンジニアとしてのキャリアや、学生時代から現在に至るまでの道のり、そして現場で感じてきたジェンダーギャップについてのお話をうかがいました。

佐藤さんは、理系の道に進んだきっかけとして、ご両親が理系出身であったことを挙げ、「理系やエンジニアという職業が、ごく自然に自分の将来の選択肢の中にあった」と語っていました。この話を聞きながら、やはり身近にロールモデルがいるということの大きさを改めて実感しました。

また、大学時代の研究でプログラムのコードを書いていた際、自分の思い通りに動いたときの喜びや、時間を忘れてコードを書いていた経験についても触れ、「その瞬間の達成感が、エンジニアとしての道を選ぶ1つのきっかけになった」とお話しされていました。

さらに、IT業界で女性エンジニアが持つリアルな感想についても率直に語ってくださったのが印象的でした。たとえば、チームに配属された際、男性の方が「どのように接したら良いかわからない…」と女性を意識して心理的な壁を作っていたことです。また、就職活動中の他社の面接で「女性らしさ」を聞かれる場面もあったけれど、性差を気にせずもっと互いにフラットに仕事がしたい、といったエピソードが共有されました。

ワークショップ:過去30年分の教科書を振り返り、生成AIと授業づくりを再考する

続いては、私が担当した「授業づくりワークショップ」です。

ここでは、過去30年間の技術科の教科書を並べて、内容やイラストの“変化”や“気になる点”をみなさんと一緒にじっくり観察してみました。そこから「昔はこんな内容も教えていたんだ」「文字が多くてイラストや図解が少ない」と、参加者同士で自由に意見を交わしていただきました。

後半では、ChatGPTなどの生成AIを活用しながら、授業案を考えるセッションも行いました。先生方が自身の学校現場を思い浮かべながら、AIに問いかけたり、対話したりしながら指導案を組み立てていく様子が印象的でした。

交流会:悩みも、アイデアも、共有できる場

ワークショップの後に、先生方で交流いただく時間も設けました。

「なぜ技術科の教員になったのか?」「日々の授業で悩んでいること」「生徒が夢中になる教材」など、テーマは自由。

ときに笑いも交えながら、普段はなかなか話すことのできない教材選びの視点や、授業の進め方などが語られていました。自分が授業で使っている教材を紹介される方もいてお互いに学び合う姿も見られました。先生方がリラックスされている姿が印象的でした。

いただいた感想から見えたこと

イベント終了後に実施したアンケートには、たくさんの前向きであたたかい感想が寄せられました。

特に印象的だったのは、「話しやすい場だった」という声の多さです。

日ごろ、一人で技術科を担当することが多いからこそ、同じ立場の先生と肩肘張らずに話せる時間が、何よりのリフレッシュと学びの場になったようです。

「研修会などよりも話しやすい雰囲気だった」

「いつも1人で悶々としていて、こんなに他の技術の先生と話したのは初めて」

そんな声に、私たち運営側も思わず胸が熱くなりました。
また、生成AIと授業づくりのワークショップについても高い関心が寄せられました。

「インクルーシブ学習と生成AIは相性が良いと思います。今後もアイデアを知りたいです」

「生成AIを使った指導案づくりのあとの、先生方の感想がとても勉強になりました」

「教育現場への生成AIの導入について、これから学び、実践していきたい」

これまでAIに触れる機会が少なかった方も、「初めて使ってみて、自分でもできそう」と感じてくださったようで、これもまた安心と自信につながる体験だったのではないかと思います。

コメントの中でも印象的だったものが、

「”その作品を作らせたいのは先生ですよね?”という千石さんの言葉にドキッとしました」

「生徒に任せる授業づくりについて、もっと話し合ってみたかったです」

という、授業観にまつわる深い気づきを書いてくださった方も。

少人数だからこそ、深く、率直に語り合える。アンケートを見ながら、そんな場の力を改めて実感しました。

担当者として大切にしたこと、考えたこと

今回のイベントを企画するにあたって、私が何より大切にしたかったのは、女性の技術科教員が“安心していられる場”をつくることでした。

技術科という教科は、学校に1人しかいない場合が多く、しかも女性教員の割合がとても少ないのが現状です。研修に参加しても、気づけば男性の中にポツンと自分だけ…という経験をされた方も多いと思います。

だからこそ、今回は「女性の技術科教員だけが集まれる空間」にこだわりました。

同性同士だからこそ話せること、わかり合えることがある。そんな“共感が生まれる場”を、まずは安心して楽しんでもらえる雰囲気でつくりたかったんです。
このイベントにニーズがあるのか、私自身も半信半疑でしたが、11人もの方に集まってもらえたのでとても嬉しかったです。

教科書会社の方にも参加していただけたのも、大きな収穫でした。教科書会社の方にお声かけした理由は、私が以前教科書の執筆に携わらせていただいた際に、題材や指導方法について、教室の半分を占める女子生徒の目線や、彼女たちの興味関心について議論する機会はありませんでしたし、私もその視点を持ち合わせていなかったからです。私が当時感じていた、この課題感を教科書を作る皆さんと共有することができたのは、大きな一歩だと感じました。

さらに、ワークショップの中では、生成AIを使って授業をデザインする体験も取り入れました。これは、「学校に戻れば、また一人で授業を考えなければならない先生たちの助けになれば」という願いがあったからです。

AIは魔法の杖ではないけれど、発想のきっかけや、誰かと話すような感覚でアイデアを深められる存在。「授業づくり=孤独な作業」になりがちな現場で、AIという“新しい相棒”と出会ってもらいたかったのです。何より嬉しかったのは、参加してくださった先生方が、対話とAIの活用を通して、どんどん指導案のアイデアを膨らませていたことでした。

男性が1人だけの会場で思ったこと…

今回のイベントは、男性参加者は私1人でした。そんな中で、私自身が反省点として感じたことがあります。

それは、イベントを運営する中で、「女性の活躍」「女性ならでは…」というキーワードに、私自身が引っぱられすぎてしまっていたかもしれない、ということです。

もちろん、背景にあるジェンダーの課題は無視できませんし、それに向き合うことも大切です。ただ、以前、ある女性の技術科教員の授業を受けていた生徒たちから話を聞いたときのことを思い出しました。

「私たちが興味を持つ内容で、わかりやすく教えてくれれば、先生の性別は関係ないです」

この言葉を思い出したとき、いろいろな意味で、子どもたちの方がよっぽどフラットに物事を見ているのかもしれないなと感じました。

もちろん、場を整えること、環境を変えていくことは必要ですが、どこかで「教員が“女性であること”ばかりに意識を向けすぎないこと」も大事なのかもしれません。

イベントを通じて、支援のあり方も“女性だから”に縛られすぎないことの大切さを感じました。環境づくりと個の力、どちらもバランスよく支え合ってこそ、よりよい教育ができると考えています。

まだまだ小さな1歩だけど…

この記事をここまで読んでくださった方の中には、性別に関わらず、

・今はまだ技術科を担当したばかりで不安な先生

・これから技術の先生になろうとしている学生の皆さん

・学校では“マイノリティ”として孤独を感じている方

そんな方もいるかもしれません。

でも、今回のイベントが示してくれたように、「1人じゃない」と思える瞬間があれば、人はまた前を向いて進んでいけるのだと私は思います。

みんなのコードは、これからも「つながり」「対話」「多様性」をキーワードに、授業づくりや教育の現場を支える取り組みを続けていきます。

この場で生まれた繋がりが、これからの授業や日々の励みになれば幸いです。

※本イベントは、Yahoo!基金「ITによる社会課題の解決支援助成プログラム」の助成を得て実施しました。

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