はじめに:10年目の節目にて
2015年にみんなのコードを立ち上げてから、ちょうど10年となる今日。
この節目に、私はみんなのコードの代表理事を杉之原明子さんにバトンタッチすることにいたしました。
みんなのコードは、「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」というビジョンのもと、小学校でのプログラミング教育必修化に伴う支援から始まり、教材開発や教員研修、政策提言、みんなのクリエイティブハブ、生成AI時代を見据えた取り組みに至るまで、全国の皆さまと共に歩んできました。
ここまで来られたのは、先生を始めとする現場の皆さま、行政や企業の皆さま、そして組織を支えてくれた仲間たちのおかげです。10年という長くてあっという間の道のりを、皆さまと共に歩めたことに、心から感謝しています。
始まりは「面白そうだから」だった
最初のきっかけは、前職の同僚向けに行ったプログラミング研修でした。
そのときに使用した「Hour of Code」が想像以上に面白く、「これは子どもにも喜ばれるのでは」と思い、ボランティアでワークショップを開催してみたのが、みんなのコードの出発点です。

写真は、そのときの様子を撮影したものです。
当時は、これが組織となり、10年にわたって全国の先生方や多くの仲間と共に歩むことになるとは思っていませんでした。
ただ、「やってみたら面白かった」「少しニーズがあるかもしれない」——そんな小さな実感の積み重ねが、次の一歩へとつながっていきました。
「しくみをつくる」10年の歩み
設立当初から、「現場に何が必要なのか」、そしてそのために「どんな“しくみ”があればいいか」を考え続けてきました。
たとえば、プログラミング教育が必修化された当初、私個人に多くの研修依頼をいただきましたが、「現場のことは現場の人の方が良いだろう」と考え、研修の講師には現役の先生に加わっていただきました。また、この判断は、みんなのコードの採用へのこだわりの原体験になり、その後のチームの強さにつながったと思います。
その後、教材の無償提供、教員研修の体系化、地域の居場所づくり、政策提言、そして実証研究や民間企業・行政との連携まで、自分一人では到底実現できなかったことも、「チーム」が「現場」に「しくみ」をつくることで、多くの先生や子どもたちの手に届くようになっていきました。
仲間との出会い、そして組織の進化
こうした取り組みを進める中で、さまざまな専門性や価値観をもった仲間たちが加わってくれました。
杉之原さんは参画後、COOとして組織基盤の整備や事業戦略の見直しに取り組むとともに、DE&Iの視点を組織文化と事業開発の両面に反映させてきました。さらに、私が代表として様々な判断を抱え込み、組織のボトルネックになっていた部分も、杉之原さんの着実な働きかけによって解消され、チームで意思決定が進む組織へと移行できました。
安藤さんは、CTOとして従来のプロダクト(プログルなど)を支えるだけでなく、直近では全社的な生成AIへのシフトをリードしてくれました。技術的な観点から事業や組織のアップデートを進める役割として、なくてはならない存在です。
本当は、ここで紹介しきれないほど多くの方に支えられて、今のみんなのコードがあります。役員・社員・ボランティア・外部パートナー…一人ひとりの力があってこそ、ここまでたどり着けたと感じています。
これからを託すということ
今回の代表交代は、「これまで」を区切るためではなく、「これから」をよりよく進めていくための選択です。じっくりと考えたのですが、自信を持っての決断です。その背景には、3つの観点があります。
まず、私自身の観点です。
「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」というビジョンを掲げて活動しているみんなのコードですが、近年の私は、それを超える関心領域に取り組むようになってきました。
たとえば、アジアにおけるコンピュータサイエンス教育の推進や、新公益連盟での次世代NPO育成プロジェクトなどです。
そのような幅広い視点から社会に貢献するためにも、私はみんなのコードの代表という立場から俯瞰し、「理事 会長」として組織と関わっていくことにしました(※その役割については次節で触れます)。
次に、みんなのコードという組織全体の観点です。
我が国の学習指導要領は10年の改訂サイクルであり、11年目に入るみんなのコードとしてはこれから「2周目」のフェーズに入っていきます。
このタイミングで、「1周目」の私の視点だけにとどまらず、「2周目」は杉之原さんのDE&Iへの深い理解や、安藤さんによる高度なテクノロジー活用の視点が取り組みをリードしていくことで、より広く、より持続的な社会的インパクトを生み出せる体制になると確信しています。
最後に、杉之原さんという個人の観点です。
私が前職で見てきたのは、上場前の40人規模の組織でしたが、杉之原さんは立ち上げからリードし、上場前から上場後700人の組織を率いてきた経験を持っています。(※みんなのコードが上場や急拡大を目指しているわけではありません)
「持続可能で、より多様な人が活躍できる組織」を築いていくうえで、その経験は非常に頼もしく感じています。
そして、エンジニアとして「コード(技術)」を軸にしてきた私に対して、杉之原さんはDE&Iに思いを持ち「みんなの」という言葉に誠実に向き合い続けてきた人です。
ここまで「みんなのコード」として10年間社会に貢献してきましたが、今後は「みんなのコード」の色もより強く持つインパクトを実現していくことになるだろうと思っています。
結びに:この10年とこれから
あらためて、この10年間、みんなのコードに関わってくださったすべての皆さまに、心から感謝申し上げます。
子どもたち、先生方、行政、企業、チームのメンバー、そして支援者の皆さま。どれが欠けても、今のみんなのコードは存在しません。
私はこれから、「理事 会長」として、みんなのコードにコミットし続けます。
老害・院政とならないよう気をつけながら、組織の長期的なインパクトや存在意義の検討に加わり、政策提言や個人的なご縁のある企業との連携といった渉外面でも貢献し、杉之原代表をはじめとする新たな体制をしっかりと支えていく心づもりです。
代表の役割を「手放す」というより、「託す」という表現がふさわしいと思っています。
これまで一緒に歩んできた皆さまにも、その思いを共有いただけたら嬉しく思います。
次の10年を歩み始めるみんなのコードに、引き続きご指導とご支援をいただけましたら幸いです。