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みんなのコードマガジン

活動レポートをお届けするウェブマガジン

一人で抱え込まない授業づくりを〜新潟・埼玉県の少し先を見据えた「技術科研修」〜

こんにちは、みんなのコードの千石です。私は全国の中学校で「技術」を担当している先生方に向けて、研修講師や、教材・カリキュラムの開発を担当したりしています。

今回は、県や市の教育委員会が主催する教員研修についてご紹介したいと思います。

先生の夏休みと研修の関係

皆さんは、夏休みの間、学校の先生はどのように過ごしていると思いますか?

もちろん、児童・生徒と同じように旅行に出かけてリフレッシュしたり、体をゆっくり休めたりすることもあります。しかし、それだけではありません。先生にとって夏休みは「学び直しの時間」でもあるのです。その代表的なものが研修です。新しい指導内容を学んだり、授業に役立つ教材を体験したりする大切な機会になります。

一方、中学校技術科の先生を対象とした研修は、全国どこでも同じように行われているわけではありません。教育委員会が主催、または先生たちの研究会を中心に実施、あるいは企業や団体が独自に開く、などなどスタイルは様々です。

教育委員会が主催する研修の中身はどうやって決まる?

夏に教育委員会が研修を主催する場合、依頼をいただく時期は前年の秋から冬にかけてが多いです。私は中学校「技術」を担当しているため、研修内容のご相談としては、中学校技術で扱う

  • 「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」
  • 「計測・制御のプログラミング」

に関するものや、域内で導入済みのハード教材を効果的に活用するためのものが中心となっています。

加えて近年では、

  • 「生成AIをテーマにした研修を実施してほしい」
  • 「地域の課題解決の事例を取り入れてほしい」

といった新しい要望も増えてきており、研修テーマの幅が広がってきています。

こうした要望を受けて、担当の指導主事の先生と「どの部分を重点的に扱うか」「実習をどのくらい取り入れるか」「受講する先生方の経験値に合わせて難易度をどう調整するかなどを一つひとつ相談していきます。

教育委員会ごとに抱えている課題やニーズは多様なので、ご依頼をいただいた段階での話し合いが重要です。研修実施までに新たな課題が見えてきたり、域内の体制が変わったりすることもありますが、その際には中身を都度見直し、最新の課題やニーズに対応できるよう心がけています。

このように、夏の研修は前年度から少しずつ準備が積み重ねられているものであり、「一日限りのイベント」ではなく、「先生方の授業を支える長いプロセス」なのです。

新潟県の研修レポート① 〜 ニーズに合わせた研修設計 〜

2025年7月28、29日、新潟県内のほぼすべての中学校技術科の先生が参加する、大規模な研修に講師として参加しました。

この研修で教育委員会からいただいたテーマは、①micro:bitの活用、②計測・制御、③(その他、技術科の)基本的な内容の3点です。micro:bitは、小学校との接続を考えて導入を進めている自治体が増えていますし、実際、新潟県内でも導入が進んでいます。また、micro:bitは計測・制御のプログラミングで用いられることが多いため、①、②は、イメージが湧きやすいものでした。

③は、やや難問です。指導主事、受講する先生、講師が考える「基本的な内容」が乖離していると、意味のない研修となってしまいます。新潟県の場合は、2023年、2024年と3年連続で研修を依頼していただいているので、これまでの流れを振り返りながら、県内の先生方に、今必要とされる「基本的な内容」はなんだろうと考え、研修を設計しました。

新潟県の研修レポート② 〜 少し先を見据えた挑戦への後押し〜 

その結果、いただいたテーマに加え、「データサイエンス」と「領域の組み合わせ」という二つの発展的な内容を盛り込むことにしました。

まず、micro:bitが内蔵している気温センサ・明るさセンサと、ワニ口クリップと釘を使って作った土壌センサで土の水分量を測定し、これらをmicro:bitに保存するプログラムを作成する活動を体験してもらいました。センサを使ってデータを収集し、活用することと、生物育成と情報技術を組み合わせた授業のイメージを持つことが狙いです。

次に、データを取り続けるための方法を考える活動を取り上げました。「乾電池で1か月間データを測定できるか?」という問いを立て、micro:bitの消費電力を考慮しながら、単4電池、単3電池など、電池の種類によって、どの程度動作時間が変わるのかを考えます。永続的にデータを取り続けるために、太陽電池を利用する活動も盛り込みました。

携帯電話や電気自動車など、バッテリを搭載した機器は日常的に目にしますが、バッテリを増やす/減らすとどうなるか考える機会はなかなかないため、エネルギー変換の学習事例として紹介させていただきました。

みんなのコードが2024年7月に発表したカリキュラムモデル案の中で、中学生からの初歩的なデータ活用の学習や、材料と加工・生物育成・エネルギー変換の3領域と、情報技術を組み合わせる活動などを提案しています。

中央教育審議会の最近の議論でも、2030年代の技術の活動として同様の内容が示されており、少し先を見据えた内容を体験いただくことができたと思っております。

埼玉県の研修レポート 〜 生成AIに挑戦〜

埼玉県教育委員会からは、生成AIをテーマにした研修をご依頼いただきました。この研修は、中学校技術の先生が全員参加する形式(悉皆研修)ではなく、受講を希望する先生が集まる形式(希望研修)です。

生成AIに興味のある先生が集まる研修ということで、実践的な内容も取り入れ、午前は「授業で生成AIを使わせる」、午後は「先生が校務で生成AIを使う」という2部構成で実施しました。

午前中は、生成AIの基礎と安全な使い方を、みんなのコードの提供しているプログルラボ「みんなで生成AIコース」で体験しつつ、プロンプト入力のコツ、個人情報の保護について、気をつけるべきところを、実習で学んでいただきました。また、文部科学省のガイドラインにも触れ、保護者への許諾や管理職の理解など、生成AI利用に関する周辺の話題についても話し合いました。

午後からは、先生方が生成AIを校務で使うことを想定し、生成AIで単元指導計画や指導案、授業スライドの作成に取り組みました。普段は学校に1人しかいない技術の先生ですが、研修会では3〜4人のグループで協働し、生成AIを活用しながら作り上げていました。

単にChatGPTやGeminiに作成を依頼するだけでなく、何を学ぶのか、どのように学ぶのか、何ができるようになるのかなどの観点を、グループで議論する姿が印象的でした。

個人で生成AIと指導案を作るときよりも、より深く考え、他の先生のアイデアを幅広く取り入れられていたように思います。このワークを体験した先生方は、生徒たちの授業にも同じような活動を取り入れることができるのではないでしょうか。

「一人で抱え込まない」みんなで学ぶ場の大切さ

中学校技術科は、材料・生物・エネルギー・情報と守備範囲がとても広く、しかも情報分野は日々アップデートが入ってくるスピードの速い領域です。だからこそ、「一人で抱え込む」のではなく、定期的に顔を合わせて学び合うことが本当に大切だと感じています。

新潟県や埼玉県での研修も、教育委員会の先生方が「これは必要だ」と感じて企画してくださったからこそ実現し、そして私の提案も受け入れてくださったおかげで、新しい教材や内容を先生方に届けることができました。

実際に先生たちが試してみて、意見を交わして、授業に活かせるヒントをつかむ姿を目の当たりにして、私自身「あぁ、やっぱりこういう場って大事だな」としみじみと感じました。

研修の場を定期的に用意した分だけ、先生の授業は少しずつ、しかし確実に進化し、生徒の学びはより楽しく意義のあるものになるはずです。

みんなのコードは、教育委員会や教育センターの依頼を受けて、研修講師の派遣やプログラム設計のサポートを行っています。「やってみたい」と思われたら、気軽に声をかけていただけると嬉しいです。

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