はじめまして!ミミミラボの館長の溝渕です。
「ミミミラボ」は石川県金沢市にあります。2021年7月から三谷産業株式会社とみんなのコードが運営しているクリエイティブハブです。クリエイティブハブは、「デジタル × 子どもの居場所」をキーワードに、10代の子どもたちが気軽に、安全にテクノロジーに触れられる場です。
設立のきっかけなどの詳細はこちらのマガジンもぜひご覧ください。
100年企業の挑戦―三谷産業とみんなのコードが創る次世代の学び場(前編)
型破りが未来を創る―三谷産業とみんなのコードが描く「ミミミラボ」の意義(後編)
ミミミラボは、好きなことに打ち込む場であると同時に、少し大人のメンターたちとのつながりを通して子どもたちにとっての新たな心の拠り所となることを目指します。
この記事では、ミミミラボの館長である私溝渕と、コーディネーターの吉川の、ミミミラボへの想いをお届けします!
2人がミミミラボに関わることになったきっかけ
溝渕:
まず、それぞれミミミラボに入る前のことを話しましょうか!僕は、前職は関西で子ども向けロボットプログラミングの教室長・エリアマネージャーをしていました。4年ほど経験し、次のステップで「子どもたちの好きを、もっとできる場所が作れないかな」と画策している時に、同じようなことを考えている施設を検索でヒットしました。それが、みんなのコードが運営するクリエイティブハブでした。
子どもたちの「好き」を追求できる場所って、民間企業でやるとコスト的に難しく、NPOだと資金的に厳しい。それを現実化している「みんなのコードはなぜっ?」て感じで興味があり、たまたま館長募集をしていたので即応募しました。採用されるわけはないと思っていたので、運営のノウハウなどが生で聞ければ良いかなっていう理由でした。

でも気づくと3ヶ月後にはミミミラボの館長に採用され、さらに3ヶ月後の2022年4月には奈良から単身赴任で金沢に移住してました(笑)。
吉川:
僕が関わりはじめたのはもう少し前で、最初は美大生のときにメンターとして参加したのがきっかけでした。みんなのコードのメンバーや他大学の学生、金沢や加賀のコミュニティの人たちと出会えたのはすごく刺激的でしたね。
僕自身がものづくりをする人間なので、ミミミラボにある3Dプリンターやレーザーカッターといった機材も魅力的でした。新しいツールに触れることで自分の中の表現方法が増えるのはもちろん、子どもたちがそれをどう使うのかを見るのもとても興味深かったんです。
ちなみに、溝渕さんの前の館長も芸大出身だったので、よく二人で「美術やアートは絵を描いたり彫刻をつくるだけではない」という話をしました。芸術に触れたことのない大人や子どもに、芸術や創作活動に含まれる要素や重要性をどう伝えるか。そんなことをよく話していました。
そうした背景もあったから、大学卒業後コーディネータとして入社したときに「自分はその役割を担うんだ」という意識がありました。
「思考錯誤の余白」が大切
溝渕:運営する中で大事にしてきたのは「思考錯誤に余白を持たせる」ことだと思っています。それはミミミラボのいいところでもあると感じています。
子どもたちや私たちスタッフにとっても、思考錯誤は自分から動くことではじめて生まれる。だからこそ、自分らしく動けるためにはどんな居場所がいいのかを常に考えながら、私たちもまた思考錯誤してきました。
試行錯誤すると、うまくいく時、うまくいかない時と結果は様々。白黒つけるのではなく、余白を持たせてゆる〜くすることで意外にいろんなことが見えてくることがあるんですよね。
その中で、ミミミラボの大きな特徴の一つは「何もしなくてもいい」という選択肢があることだと思ってます。これまでの居場所やデジタル教育の場では、なかなかそういう“余白”は少なかったんじゃないかな。
何もしないってことは何も生まないということではなく、子どもたちが充電する良い時間になっていて、子どもたちは満たされてくると必ずいろんなことに挑戦したくなる。
実際に、私たちが子どもたちに指導することはほとんどありません。むしろ大事にしているのは「背中を見せる」こと。何もしていない時に、大人が自分のスタイルで楽しみながら過ごす姿を見せることで、子どもたちも自然と学び、自分なりの動き方を見つけていく。そんな場を目指してきました。
吉川:
ミミミラボを訪れる子どもたちの理由や思惑は様々で、それはこの場所を考える上ですごく大事なことだなと思います。
シンプルにものづくりがしたい子もいれば、居場所を求めている子、人と話したい、遊びたいという子もいる。ただ休憩したい、習い事の合間に寄る子もいるし、学校や家庭からの逃げ場にしている子もいます。
それぞれ違う理由で訪れ、しかも同じ子でも理由がどんどん変化していくんですよ。そんな子どもたちが1つの空間を共有している。この「ごちゃまぜ感」が最大の特徴だと思います。だからこそ、利用者それぞれがデジタル、人、場所との関わり方を探れる場になればいいなと個人的には願っています。

あと、僕ミミミラボを体育の授業で考えてみたんですね。
そうすると、ミミミラボは「みんなで早く走るための走り方を教わる」場ではなく、自分にあった走り方を考えられる場なのではないかと思っています。たとえば、早く走るのは苦手だけど長く走るのは好きとか、スキップが大好きだとか。自分の体や状況にあわせて楽しく走る方法を見つけられるような場所が理想的なんじゃないかと考えています。
その一つとして、「やることを強要されない」「生き方を押しつけられない」みたいな“余白”を大事にしています。これはスタッフ全員が意識している大切なポイントかもしれません。
ただ、子どもたちと接しているときに「何でも自由でいいよ」というだけではありません。デジタルやものづくりの魅力、あるいは社会的な常識や人との関わり方など、社会に出るうえで身につけてほしいことはスタッフそれぞれに伝えたい思いはもちろんあります。
その時に意識しているのは説得するんじゃなくて「誘惑」する。これは、美学者・伊藤亜紗さんの「説得ではなく誘惑で社会を変えていく」という記事(参考記事)を参考にさせてもらっていて、取り組んでほしいコンテンツや、こうあってほしいという姿勢に、無理やり引き込むのではなく「ちょっとやってみたい」と思わせる。そういう仕掛けを意識しています。子どもたちを説得して呼び寄せるのではなくて誘惑するっていうのはすごく重要視しています。
だからこそ、メンターさんにも「自分の背中を子どもたちに見せてほしい」とお願いしています。ここに来る子どもたちは本当に多様だからこそ、何かを強制するのではなく、多様な背中を見せていくこと。それが、ミミミラボの大事なあり方だと考えています。
それぞれの考えをもった大人がいる。それがミミミラボ
溝渕:
2、3年前にメンターさんたちに ”大人の背中を見せるぜ” 的な方針を打ち出したんです。子どものそばに常に寄り添わずに、必要な時に寄り添い、自分たちの背中を見せてあげてほしいと。
一見簡単そうなんやけど、これがまた仕事となると意外に難しい。
「好きなことをやっていいんですよね」と言ってすぐに没頭するメンターもいれば、なかなか抵抗を感じるメンターもいました。そのバランスを取るのが難しいところで、私たちが強要しすぎて雰囲気がギシギシしてしまわないように、長い時間をかけて少しずつ慣れてもらうことを意識してきました。
背中を見せることを強要しない、何もしない、とにかく自由に自分の好きなスタイルでやるということは、一見簡単そうなんだけど、実現するのにオープン当初から数えて4〜5年かかったよなあ。
吉川:
僕と溝渕さんでも考え方が違う部分はありますし、子どもたちへの対応や施設の方向性についても、関わっているメンターはそれぞれバラバラだと思います。だからといって、全員に同じ考えを強要するつもりはありません。
「あ、メンターと溝渕さんがちょっとぶつかってるな」という時もあって(笑)。僕は大体「面白いなー」と思いながら見ています。
溝渕:
それは多分、僕が館長という役割だからかもしれないね。チームって、いろんな意見を持ったメンバーが集まって初めて成り立つものだと思っていて、意見の違いがネガティブに傾きすぎると、チーム自体がバラバラになってしまうから、ある程度はラインに乗せていく必要があると思っているかなって思ってます。
吉川:
溝渕さんがチームビルディングの意識を持ってくれているからこそ、僕や他のメンターは好き勝手に動けていると思うんです。考え方の違いがせめぎ合いながら「ミミミラボ」という空間は成り立っている。ある種、ラフな空間というか。そのラフさこそ、子どもたちに安心を与えているのではないかと感じています。大人が全員同じ方向を向いている空間って、むしろ怖いですよね。だから「あ、大人も人間なんだ」と思ってもらえたらいいなと思っています。
ミミミラボ:https://mimimi-lab.jp/
みんなのクリエイティブハブ:https://code.or.jp/activity/hub/
