こんにちは、「みんなのクリエイティブハブ」発起人の末廣です。私は2018年に東京都から石川県へ移住したことをきっかけに、日本の地方、特に過疎地域での教育事業に携わってきました。そして、2019年にみんなのコードに入社し、「みんなのクリエイティブハブ」の発起人として、拠点開設、運営支援、ネットワークによるコミュニティづくりを進めています。
昨年、2025年10月にアリゾナ州フェニックスで開催された The Clubhouse Network※1 (以下、TCN)主催の Annual Conference(以下、カンファレンス)に参加しました。今回の記事では、カンファレンスを通して得た世界の状況、学び、そこから見えた日本のこと、そしてこれからのことについてお話ししたいと思います。
| ※1 The Clubhouse Network(TCN)は、世界20か国・162か所に広がる国際的なコミュニティで、低所得層を含む若者たちがテクノロジーを使って探究し、試行錯誤し、自分を表現できる“居場所”です。1993年にMITメディアラボと協働して設立され、若者がSTEM分野への興味を発見し、より創造的で自信ある学び手へと成長していくことを支えています。(引用元: https://theclubhousenetwork.org/) 日本では2019年、石川県加賀市に国内第一号のコンピュータクラブハウスが開設され、自治体の委託を受けてみんなのコードが6年間運営してきました。地域の子どもたちが放課後に集い、動画制作やプログラミング、3D造形などに挑戦できる場として機能してきましたが、2025年3月をもって運営は一旦休止しています。 (参照:引用元 https://computer-clubhouse.jp/) |
今回参加したカンファレンスは、世界20か国・160拠点を超えるコンピュータクラブハウスから運営者が集う年次会議で、4日間にわたり30以上のセッションが行われました。最新の教育トレンド、拠点運営のノウハウ、サステナブルな経営の在り方まで、各国の現場のノウハウが飛び交う濃密な場でした。
今回私が携えていたのは、「これから日本でネットワークを主催する立場として、どのように“あり方”を示すか」という問いです。
私自身、これまでは“ひとつの拠点の運営者”でしたが、休眠預金活用事業を推進するプロセスの中で、次第に“ネットワーク全体を育てる側”へと役割が変化してきました。その視点の切り替えに戸惑いがあったのも事実です。
現地に着くと、想像以上に緊張感のあるテーマが続きました。
米国でDEI(多様性・公平性・包摂)という言葉の扱いが難しくなっている現状、そして全米の約30拠点に対する資金提供が打ち切られるというニュース。
“これは、日本でも起こり得る”——そう思わずにはいられず、私自身の覚悟も問われる4日間になりました。
今回、4日間の中で11のセッションに参加しました。すべて紹介したいところではあるのですが、私自身が強く考えさせられた点を中心にご紹介していきたいと思います。
米国約30拠点に対する資金提供打ち切り
カンファレンスは、TCNのExecutive Directorである Lisa の開会挨拶から始まりました。
今年のテーマは “Refill the Cup”。日々の活動で消耗しているエネルギーを、この場で満たし直してほしいというメッセージでした。オープニングセレモニーは華やかさもありつつ、和やかな時間が流れていました。

しかし、その空気は一変します。
地域ごとに分かれ、ネットワーク事務局と拠点運営者が深く対話をするセッションで、一人の拠点運営者が静かに声を上げました。
「カンファレンスにくる前の直前のミーティングで、拠点への資金提供が打ち切られると聞かされた。自分の職の継続だけでなく、子どもたちへのプログラム提供も見通しが立たない。他にも同じ状況の拠点が多いと聞いている。なぜこの話題をカンファレンスで扱わないのか。セレモニーの雰囲気と現実に大きなギャップを感じている。」
その発言を皮切りに、次々と拠点運営者が立ち上がり、それぞれの不安や疑問を口にし始めました。あまりに突然の展開で、私は最初、状況を理解するのに時間がかかりました。しかし彼らの表情や口調から、ただ事ではない問題が進行していることが徐々に伝わってきました。

セッションは予定を1時間ほど延長されましたが、全員の声を十分に扱うには時間が足りませんでした。私はその後、TCN事務局や運営者から事情を聞き取り、以下の事実を整理することができました。
| ・米国内の Best Buy Teen Tech Center 約40拠点が資金提供停止の対象 ・継続支援対象として残るのは、ロサンゼルス、ニューヨーク、アトランタ、ミネソタ州の4地域のみ ・18ヶ月の猶予期間の中で拠点を「継続」か「閉鎖」かを判断する必要がある ・通知は Annual Conference 開催の約2週間前現場拠点スタッフに十分な情報共有がされていなかった |
改めてアメリカで起きている状況を整理したとき、私は大きな衝撃を受けました。
Best Buy という強力なスポンサーによってネットワークが急拡大していく様子を、私はずっと羨望の眼差しで見てきたからです。
日本が初めてTCNに加盟したのは2019年でした。当時、拠点数は「19か国・121拠点」。COVID-19 の影響で伸びが鈍化した時期もありましたが、Best Buy は2020年に 米国内100拠点開設 へのコミットを宣言し、2022年には新規拠点のためのプロポーザルを行いました。実際、プロポーザル後からの3年間で拠点数は 164拠点 にまで増加しました。(コンピュータクラブハウスも含む)
規模は違っても、私は、日本でも同じように「拠点が増えていく未来」を思い描いていました。
しかし今回のアメリカでの出来事は、単一の財源に大きく依存するモデルは、急速な拡大と同じくらい“縮小の脆さ”もあるという厳しい現実を示していました。
米国DEIの現在地——“言葉”ではなく“中身”を守り続ける
「アメリカはDEIが進んでいる国」そんなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
しかし現地に足を運んでみると、その前提が大きく変わりつつあることが分かります。トランプ政権以降の政策転換をきっかけに、企業・大学・地域社会のあらゆる場面で、“DEIという枠組みの扱い”が難しくなっていました。
実際に、大学がDEI部門を閉鎖する事例※2や、州がDEI関連プログラムを制限・禁止する法律を成立させる動き※3が相次いでいます。
これらは決して一部の例ではなく、米国全体の空気感が変化していることを象徴しているように感じました。
※2: Reuters “University of Michigan shuts DEI office, citing Trump orders and funding warning”
※3: BestColleges “These States’ anti-DEI legislation may impact higher education”
私が参加したセッションでも、この変化について生々しく共有されていました。ただし、その語り口は「もうDEIは終わりだ」という諦めではありませんでした。むしろ印象的だったのは、登壇者たちが一貫して次のようなスタンスを示していたことです。
「DEIという言葉は使いづらくなった。でも、やるべき中身は変わらないし、止めない。」
2-1. Leadership Panel の登壇者たち
このセッションには、米国の企業・NPOセクターでDEI・CSR・社会的インパクトを担う実務者が登壇していました。
- Sean Curran
TCN Chairman of the Board / Principal of Waterville Consulting - Andrea Wood
TCN Board Member, President / CEO of the Association of Corporate Citizenship Professionals - Olivia Jefferson
VP and Executive Director of Best Buy - Kimberly Mayes
VP of Strategic Talent, Inclusion, Engagement, and Corporate Social Impact, Intel

2-2. 議論の土台になった最新データ(ACCP)
登壇者の議論の裏付けとなったのが、ACCP(Association of Corporate Citizenship Professionals)による全米調査です。
「新政権のもとで、御社のCSR・ESG・DEIへのコミットメントはどのように変化すると予想しますか?」という問いに対して、調査では以下の内容が明らかになりました。
ポイント①:CSR/ESGは維持、一方でDEIだけ大きく減る
- DEIを「減らした」企業:31%(他領域の約3倍)
- CSRは10%、ESGは18%にとどまり、対照的にDEIのみが大幅に減少
- 「増やした」はDEIで6%にとどまる

https://accp.org/wp-content/uploads/2025-ACCP-Pulse-Survey-Slide-Deck-FOR-DISTRIBUTION.pdf
企業の社会貢献活動全体が縮んでいるわけではなく、DEIの縮小が顕著であることが分かります。
そして、「外部環境の変化に対応して、この12か月間にあなたの部門でどのような変化がありましたか?」という問いに対して、調査では下記がわかりました。
ポイント②:外部環境の変化への対応として「DEIという言葉」が避けられている
過去12か月の変化として、2025年の企業回答では、
- “DEIという語の使用を減らした”:54%
- 法的監視(legal oversight)が増えた:43%

DEIと法的リスクの関係は日本ではあまり馴染みがありませんが、複数の州で反DEI法が成立していることや、訴訟リスクの高さが、企業行動に直接影響しているようです。具体的には、DEI関連の活動が法律に触れる可能性があるため、「プログラム名を変える」「表現を変える」といった慎重な対応が求められている、といった説明がありました。
2-3. データが示すのは「後退」ではなく“適応”のプロセス
こうしたデータや現場の声から見えてくるのは、単なる「トレンドの後退」ではなく、“DEIという言葉をめぐる適応と再編”が起きているということです。
パネルで繰り返されていたポイントは、次の3つでした。
- ラベル(DEIという言葉)は柔軟に変えてよい
- しかし、機会格差を是正する取り組みそのものは止めない
- 外部環境に合わせて表現は調整しつつ、現場の支援は継続する
「表現を工夫しながら、本質的な中身を守り抜く」ことが、今のフェーズのリアルなDEIの戦略だということです。
だからこそ、問われているのは
「このラベルを守るかどうか」ではなく、「現場で何を続けるのか」 なのだと感じました。
おわりに
今回のカンファレンスを通じて、
「大きなスポンサーによる急拡大」と「DEIの揺り戻し」の両方を目の当たりにしました。
そのうえで、みんなのコードとして、そして「みんなのクリエイティブハブ」に関わる一人として、これから各地のパートナーと一緒に考えていきたいのは、次のような点です。
- どの地域でも“最低限これだけはあった方がいい”という 共通のコア要素 は何か
- 逆に、地域の文脈に応じて自由にアレンジしてよい 可変部分 はどこか
- 自治体・企業・財団・個人寄付など、財源の組み合わせパターン をどう増やしていくか
- 現場のデータやストーリーを蓄積し、「こうした場があると何が変わるのか」 を社会に伝えていく方法
米国のモデルを尊重しつつも、日本の制度や文化、そして地域に合った「みんなのクリエイティブハブ」の姿を、これから少しずつ描き直していきたいと強く感じました。
それが、今回のカンファレンスから私が持ち帰った一番大きな問いであり、今後、全国の仲間と共に深めていきたいテーマです。


