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シクラメンへの自動給水で「みらいをきりひらく」〜高知県立窪川高等学校のアラムコSTEAMチャレンジ:授業レポート〜

こんにちは。みんなのコードの永野です。主に高等学校のプログラミング教育や生成AIについての教員研修などを担当しています。
全国の中学・高等学校のSTEAM教育を支援する「アラムコSTEAMチャレンジ」の取り組みで、これまでにもいくつかの授業を紹介してきました。

今回は、2026年1月に伴走校である高知県立窪川高等学校の授業を見学させていただきましたので、その様子をレポートします。

地域に根ざした「起業精神」の育成

高知県立窪川高等学校は、高知県四万十町の豊かな自然の中に立地する、地域との関わりを重視している学校です。普通科でありながら商業や農業、地域課題解決に関する授業が行われており、生徒各自が「社会の一員として何ができるか」を考えることを重視しています。

日本の地方は人口減少や高齢化が進んでいますが、窪川高校では「起業精神」の育成を掲げて地域の課題解決などにも取り組んでおり、DXハイスクールにも指定されています。
アラムコSTEAMチャレンジの授業は、「みんなのみらいをきりひらく」という理念を具体化する学習ともいえる、2年生の「農業と情報」で実施されました。

水やりが自動的にできる?

窪川高校がSTEAM教材として選択したのは「M5GO IoTスターターキット」です。キットの中核である「M5 Stack」は液晶ディスプレイを備えた小型のマイコンモジュールで、温度や湿度などを計測する様々な外部モジュールも接続できる教材です。

水田直樹先生が担当する当日の授業のテーマは「給水自動化計画」でした。
窪川高校では「農業」に関する科目があり、生徒たちは作物への水やりなども実習で経験しています。

作物の手入れは大事なことですが、農家や農業高校の実習など多くの作物を扱う場合、かなりの重労働と言えます。

生徒たちにとって、「もし水やりを自動化できたら」というのは、これまでの自分たちの経験とも結びつき、イメージしやすくその効果も実感しやすいテーマと言えるでしょう。

また、四万十町にとっても重要なテーマと言えます。授業後に水田先生にお話を伺ったところ、窪川地区の農家の高齢化、後継者不足は深刻で、窪川高校の生徒たちも卒業後に農業の道に進む生徒はほとんどいないと言います。

しかし、実際に農業に従事しなくても、例えばセンサーとプログラムを使って作物の温度管理や給水、換気などを自動化する事業など、地域農業を支えるような新たな仕事が生まれるかもしれません。まさに「起業精神」にもつながるような地域と密着したテーマであり、窪川高校らしい課題設定と言えます。

水やりポンプのプログラミング

「M5 Stack」には様々な外部装置を接続してプログラムによって制御することができます。水やりには「ウォーターポンプ」を接続します。「ウォーターポンプ」は当初ご提供した「IoTスターターキット」の中には含まれないので、別途学校でご準備いただきました。
このように用途によって様々な機器を選択して接続できる「M5 GO」はとても拡張性が高い教材で、様々な装置を開発することができます。

授業が始まると、生徒の皆さんは各自1つずつのウォーターポンプを開封し、まずはどのようなものか観察していました。土壌中の水分量を測れるセンサーと、ビニール管が2本伸びています。

水田先生はこのウォーターポンプをM5の本体に接続し、まずは動かしてみるように生徒たちに促しました。プログラムによってポンプをONにすると、ビニール管の一方から空気が出て、もう片方は吸い込んでいることを、生徒各自が確認していました。

その後、水分量によってポンプをON・OFF制御できるように、水分量がある一定以下の数値になったらポンプをONにし、一定以上になったら止まる、という制御を体験します。空気中にセンサーがある時にはポンプがONになり、センサーをコップの水の中に入れるとポンプが止まるようにプログラミングするわけです。各センサーには数値に若干の誤差があるため、友達のプログラムを真似ただけではうまく動作しません。センサーの値を確かめながら、自分のポンプが正しく動作するように、試行錯誤しながら数値を調整していました。

シクラメンに給水できた!

ここまでできればウォーターポンプの基本動作が概ね理解できたことになります。続いて実際の環境に適応させていく活動に移ります。

授業では、学校で栽培しているシクラメンの鉢が用意されました。生徒各自でプログラミングを行い、できた生徒から実際に鉢にセンサーを挿して動作を確かめます。

正常に動作して給水が行われたのを見ると、生徒たちは「おお〜!」という声をあげていました。ある生徒が吸水と出水の管を取り違えてしまい、水タンクに空気がポコポコと吹き込まれてしまった時には、「あっ!逆だ!」との声とともにクラスから笑いが起き、終始楽しく和やかな雰囲気で実習が進んでいました。

全員が基本的な水やりができるようになったのを確認し、水田先生は「では自分たちで色々工夫してみよう」と声をかけ、生徒それぞれが新たな機能の追加をはじめました。

発展的学習での生成AIの活用

例えば、土壌が乾燥してきた時には、水やりとともにM5本体のLEDランプを赤く点灯させ、十分な給水が行われるとLEDが緑色に変わる機能、あるいは遠隔での確認を可能にするため、センサーのデータをスマホに送信して水分量を表示したり、スマホから水やりポンプを遠隔操作したりすることなどに取り組みました。

水田先生はこの追加機能を加える学習の際に、生徒に「生成AIを使っても良いよ」と声かけをしていました。生徒たちも生成AIの利用には慣れているようで、生成AIとプログラムを作成したり、うまくいかないことについて生成AIにたずねたりしている光景が見られました。

全ての課題に生成AIを使ってしまったら、学びが希薄になってしまうかもしれません。しかし水田先生の授業では基本についてまずしっかり理解し、発展課題をAIと一緒に取り組むという点で大変興味深いものでした。生徒各自が異なるアイデアに取り組むような発展課題は、生徒の多様性を生かす良い学習になりますが、先生の事前準備やトラブル対応が煩雑になるという側面もあります。1人の生徒につきっきりになるわけにもいきません。

授業では、生徒は生成AIの助けを借りながら自分たちで解決していこうという姿勢が見られ、先生も教室を見回りながらそれぞれの生徒に声かけをしていきました。

教育に「生成AI」を「使う」「使わない」という二極化した議論ではなく、水田先生のように「理解して欲しい知識・技能」の学習場面では各自の試行錯誤や気づきを重視し、「発展的な課題」や「生徒ごとに異なるチャレンジ」においては生成AIも活用する、という手法は他の学校でも大いに参考になると思います。

この授業を見学して、四万十町の豊かな自然の暮らしを持続させながら、テクノロジーで新たな社会を築いていこうという、窪川高校の教育理念が実践されている授業であったと感じました。

アラムコSTEAMチャレンジは2026年3月で終了しますが、今後も全国の学校でSTEAM教材を役立てていただき、生徒の「実感を得ながら楽しく学ぶ授業」を大いに実践していただけることを楽しみにしています。


今回ご支援いただいたアラムコ・アジア・ジャパン株式会社は、サウジアラビアの総合エネルギー・化学企業アラムコの日本法人です。

アラムコ・アジア・ジャパン:Where Energy is Opportunity | アラムコ・ジャパン (aramco.com)

アラムコ:Where energy is opportunity | Aramco

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