公教育における情報教育の普及を目指す特定非営利活動法人みんなのコード(神奈川県横浜市、代表理事:杉之原 明子、以下みんなのコード)は、小学校の女性教員向けに特化したプログラミング教育の研修プログラム「SteP(Step by step for teacher’s programmingの略称、読み方:ステップ)」の3年間の取り組みをまとめた報告書『小学校女性教員向けプログラミング教育研修プログラム「SteP」の実践と課題』*1を発表しました。
政府が2025年6月に決定した「女性版骨太の方針2025」*2では、理工系など女子学生の割合が低い分野における進学・学びの促進が重要な政策課題として位置づけられています。特に、女子中高生や教員に対する興味・関心を喚起する地域に根ざした取組や、アンコンシャス・バイアスの解消等を含む啓発活動が求められています。みんなのコードでは、こうした背景もふまえ、2021年度から小学校女性教員向けのプログラミング研修「SteP」を実施してきました。
小学校女性教員向けプログラミング教育研修プログラム「SteP」の実践と課題
URL:https://speakerdeck.com/codeforeveryone/step-elementary-3yearreview-proposal-final
*1:本報告書は、Yahoo!基金「2024年度 ITによる社会課題の解決支援助成プログラム」の助成を得て作成しました。
*2:「女性版骨太の方針2025」
https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/pdf/sokushin/jyuten2025_honbun.pdf
StePの概要について
「令和6年度学校基本調査」(文部科学省)によると、小学校は、教員の62.6% を女性が占めていますが、みんなのコードが、過去3年間にわたり現役の小学校教員対象に実施した「プログラミング教育指導教員養成塾」では、参加者の約8割を男性が占めました。その背景には、「情報主任は男性が選ばれることが多い」「研修の対象が情報主任に限定されている」など、制度的・文化的なバイアスの存在が挙げられます。 StePは、これらの課題に向き合い、女性教員が安心して学べる場を作り、学校現場で一歩踏み出せる環境をつくることを目的に実施してきました。
SteP参加者の変化
これまで3年間の活動の中で、StePには延べ109名の女性教員が参加し、研修や授業支援、コミュニティ運営を通じて、学び合いを深めてきました。2021年度に実施した1期では、夏季休暇中に2日間の研修を実施し、授業実践や報告会を行いました。あわせて、LINEオープンチャットによる参加者同士のコミュニティも立ち上げました。2期では、研修・報告会に加えて教材としてmicro:bit(マイクロビット)を提供し、現場での授業実践を後押ししました。そして2024年度に実施した3期では、夏と春の2回に分けて研修を行い、参加者への継続アンケートの実施による実践と課題のまとめに取り組みました。
SteP1期及び2期を対象としたアンケートでは、女性教員がプログラミング教育に参加しづらい構造的背景の理解、StePを通じて得られた変化や気づき、今後の課題と改善の方向性の整理・可視化に取り組みました。
その結果、StePの参加者には、すでに公的研修に参加するなど、もともと意欲的な教員が多いことがわかりました。実際に、アンケート回答者の59.1%がStePに参加するまでの間に公的研修への参加経験をもち、また、22.7%は2020年の全面実施前からプログラミング授業に取り組んでいました。
一方で、半数がSteP参加以前にプログラミング授業を実施した経験がなく、経験の有無を問わず参加いただいていたことがうかがえます。
アンケートによれば、SteP参加前は「プログラミングの授業に自信がある」と答えた教員は22.7%でしたが、参加後にはその割合が54.5%へと増加しました。また、「積極的に授業を実施したい」と回答した教員も、36.3%から77.2%へと増加しました。さらに、プログラミング教育の必修化が決まったときにやりたくないと感じた層の60%は、SteP参加前は積極的に授業を実施したいと感じていなかったが、参加後は0%に減少しました。
こうした変化から、StePが教員一人ひとりの意識や行動を後押しする取り組みであることがわかります。
StePで取り組んだことと課題・改善点
加えて、3年間のSteP実施を通して気づいた、女性教員の研修参加を阻む制度的・文化的な壁や心理的な障壁を考察しました。
StePにおいては、対話を重視した設計を行ったり、参加者が安心して「わからない」と言える雰囲気づくりをしたことによって、参加者が対話しながら学んでいく様子がうかがえました。
一方で、業務の多忙や女性に偏った家庭・育児等による研修参加のハードルの高さ、教室での授業実践の定量的な可視化プログラムの有用性の検証を行う必要があるといった課題も浮き彫りになりました。また、性別を限定したことによって教育委員会などの公的機関との連携・協力が得られにくかったこと、オンラインやハイブリッド開催によって地域性格差を考慮したものの、リアルなつながりの必要性には応えきれなかったことから、制度として定着させるための仕組みづくりが今後の課題でもあります。
今後もより持続可能な形での改善・公的機関との接続を図りながら、 ジェンダーギャップの解消に向けた取り組みを続け、テクノロジー分野における多様性を向上することで、子どもにとってより良い未来を築くことに貢献してまいります。
みんなのコード 代表理事 杉之原明子 コメント
「小学校は女性が多い職場なのに、プログラミング研修に参加する先生はなぜ男性が多いのだろう」——StePは、そんな素朴な問いから始まりました。
みんなのコードは「果たして“誰も”に届いているか?」という視点を大切にし、特にテクノロジー分野のジェンダーギャップに重点的に取り組んでいます。StePでは、安心して学び合える場づくりを通じて、先生方の自信や意欲の変化を目の当たりにしました。一方、一朝一夕では変わらない課題だからこそ、現場に寄り添いながら、既存の構造に働きかけていく必要性も実感しました。
私たちはこれからも、テクノロジー分野における多様性の向上を通じて、すべての子どもがよりよい未来を描ける社会の実現を目指してまいります。
特定非営利活動法人みんなのコードについて
みんなのコードは、「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」をミッションに、全国で情報教育の普及活動を推進する非営利法人です。公教育におけるテクノロジー教育拡充に向けた政策提言や学術機関と連携した実証研究、プログラミング教材の開発・提供、プログラミング教育を担う先生方向けの各種研修の企画・開催、子どもたちが自由にテクノロジーに触れられる“第三の居場所”づくりなど、幅広い取り組みを行っています。
なお、みんなのコードは、さまざまな格差を埋める取り組みを行っていますが、特にテクノロジー分野においては大きなジェンダーギャップが認められるため、重点的な取り組み事項としています。
参考資料:テクノロジー分野におけるジェンダーギャップの解消に関する取り組みについて
・代表:代表理事 杉之原 明子
・設立:2015年7月